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日本再発見ジムニー探検隊
VOL.010
千葉県ディープスポット周遊
千葉県ディープスポット周遊

千葉県内に数え切れないほどあるディープスポット。
その内の桜花の秘密基地とJAXAの宇宙通信所を回った探検隊は
「千葉で最古の温泉」を目指してジムニーを走らせる。
その温泉の驚くべき実態とは?!

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“超放置プレー”な千葉最古の温泉

ちょっとラブホちっくな外観の曽呂温泉旅館。日帰り入浴は右側から入る。

お腹が満たされたら、急に眠気が襲ってきた。御宿から南下した鴨川の内陸部に、千葉県で最古の温泉があるというので、ひとっ風呂浴びて眠気を覚ますことにした。鴨川の中心街を過ぎて曽呂交差点の信号を山側に入る。水田地帯を10分ほど走ると、道ばたに「曽呂温泉」という看板が現れた。これが、目指す千葉最古の温泉らしい。

ちなみに「曽呂」という地名だが、昔この辺には多くの僧侶がいたらしい。なぜたくさんいたのか分からないが、とにかくその坊さんたちがいなくなってしまった。「僧侶」から「人」がいなくなったので「曽呂」になったという嘘のような本当のハナシ。

水田のあぜ道を上っていくと、いきなり山間に曽呂温泉旅館が現れる。外観は田舎のラブホみたいだ。玄関とは別にある日帰り入浴専用の入り口から中に入る。下駄箱に何足か靴が並んでいるので、どうやら客がいるらしいが、中はひっそりしている。「すみませーん」と声をかけてみるが、旅館の人は誰も返事をしない。事前に調べた情報では、受付に愛想のいいおばちゃんがいるはずなのだが…。

靴を脱いで上がると、「アクセサリーを取ってください」とか「カラオケをやりませんか?」とか張り紙がたくさん貼ってあり、かつて読んだ宮澤賢治の「注文の多い料理店」を思い起こさせた。ここの女将の趣味なのか、おばちゃんチックな服が壁に掛けられた部屋(たぶん販売しているのだろう)や、「自由に食べてください。120円」と書かれた冷蔵庫があったり、まったくコミュニケーションを拒絶しているかのようだ。

浴室は小さいが、泉質は抜群。2日もいれば、かなり美肌になりそうだ。

入浴料は上がってから払えばいいだろうと思い、とりあえず浴室に入る。非常にコンパクトな浴室で、風呂は3人も入ればいっぱいな広さだ。見た目は古いがとても清潔で、気分はそれなりに上がる。お湯は東京の溫泉に多い真っ黒な色で、まるでコーラ。温泉に詳しいわけではないのだが、地下の植物化石の層などを通ると大抵はこういう色になるらしい。

軽く身体を湯で流すと、ぬるすぎず熱すぎずで気持ちがいい。湯船に入ってすぐに感じるのは、とにかくヌルヌルするということ。アルカリ性泉質多い感じだが、このヌルヌルが肌の古い角質などを落とし、肌がツルツルになるという仕組みなんだとか。北海道の十勝川溫泉のお湯がやはりこういう色と感触だったが、それ以上にヌルヌルする。下世話で恐縮だが、“袋”の裏側までヌルヌルしているのはさすがに気持ちが悪い。

ちなみに、なぜ曽呂温泉が千葉最古なのかというと、千葉県で一番最初に溫泉として認可されたからなのだとか。溫泉とは言っているが、泉質表示には冷鉱泉と書かれていたので、くみ上げてから温めているのだろう。

十分に堪能したので上がって浴室から出たが、やはり人はいない。「すみませーん」と声をかけたのだが返事がないので、アイスクリームのお金を入れる箱に1000円札を入れて帰ってきた。本当の入浴料は900円。後から考えると、あと20円払ってアイスを食べれば良かった。普段は誰かしらいるとは思うが、風呂に入った後に食べられてしまうのではないか…という不安を感じる曽呂温泉だった。泉質は最高なので、溫泉好きはぜひお試しを。

農業が生んだ大地の芸術「大山千枚田」

まるで古代の空中遺跡のような大山千枚田。

最後にご紹介するのは、僕が千葉県内で最も好きなスポットだ。曽呂温泉よりもさらに山に入ること30分。平塚という地域にある「大山千枚田」だ。“千枚田”というのは、たくさんの耕作地がある棚田の総称。実際に千枚の田んぼがあるわけではない。大山千枚田は、環境庁選定の「日本の棚田百選」にも選ばれた“名勝地”だ。

水田は平地が基本で、棚田は土地がないから山に造ったと思っている人が多いと思う。実はこれは逆のハナシ。そもそも田んぼは一枚一枚すべてに水を張らなければならない。ところが昔は灌漑技術が進んでいなかったら、水が自然落下で下の田んぼまで落ちていく棚田だったのである。平地に水田をどんどん造るようになったのは、水車が考案された江戸期以降のことだと言われている。つまり、今の稲作の形態は意外と新しいのである。

棚田は大抵、上に水源を持っているものだが、この大山千枚田は完全に雨水だけで稲作を行っている全国でも珍しい棚田だ。鴨川に向かって広がる水田地帯の一番高地にあるから、下の地域の環境汚染を考えて農薬や化学肥料もほとんど使わない。それ故にビオトープとなり、棚田の周辺では昆虫や両生類、鳥類、ほ乳類が盛んに見られる。夏も近くなるとホタルが舞い、とても美しい。

棚田で作られた米は、近所の「棚田倶楽部」で買うことができる。「棚田の夜祭り」は必見の情景だ(下)。

大山千枚田は個人の耕作が難しくなったためにNPOが運営し、オーナー制で個人や法人で稲作をするという形態が取られている。「千葉なんて米が美味くない」という人がいるが、千葉は意外な米所なのだ。日本酒の元になる酒米「山田錦」なんて、流通しているほとんどが千葉産だ。大山千枚田のある周辺で作られているのは「長狭米」と呼ばれるもの。江戸時代には今の南魚沼産コシヒカリなみにブランド米で、将軍にも献上されていたという。

長狭米は粘りが強く、モチモチとした食感が特徴だ。冷たくなっても硬くなりにくく甘みがあるので、江戸時代は寿司用に好まれた。僕もこの近くの棚田を借りて長狭米作りの体験をしたが、不作と言われたものの味は十分に美味しかった。オーナーになるには3月までに書類を提出し、抽選を受ける必要があるが、1か月に一度の農作業はお米を大切に思えるいい経験だと思う。

まあ米作りをしなくても、この場所は一度訪れる価値はあると思う。作ったほうは開拓をしていったら期せずしてこういう形になったのだろうが、棚田は芸術のように美しい。山を切り開くのは環境破壊と言われがちだが、自然と共生して出来上がったものは美が備わっているということをリアルで見せてくれる。東京都内からなら東京湾横断道路を使えば2時間で来られる。これからの季節は3〜4時の夕刻の景色が綺麗だ。

10月28日(金)〜30日(日)と11月3日(祝)〜11月6日(日)の週末に、ここで3000本の松明のライトアップ「棚田の夜祭り」が行われる。非常に幻想的なイベントで、一見の価値ありだ。

というわけで、今回は千葉県にあるディープスポットを探検してみた。この4カ所以外にも、実は数え切れないほど面白いようなアホくさいようなスポットがある。千葉県はイマイチだと思っている人も、こうした場所を巡ってみると改めて魅力を発見するかもしれない。ぜひ千葉探検にお運びあれ。

<文&写真:山崎友貴>

日本の棚田百選「大山千枚田」

日本の棚田百選「大山千枚田」
千葉県鴨川市平塚540

中川小学校正門を抜けて左にこの畑が見えてきたら、後ろの林の奥が桜花の基地だ。
このV字地形に沿ってレールが敷かれていたようだ。時折、地中にコンクリの人工物が残っている。
イギリスの博物館で展示されている桜花。wikipediaから。
勝浦宇宙通信所の入口の目印。ここから山を一気に登る。冬の朝は4Hにシフトが必要かも。
勝浦宇宙通信所の建物。後ろに見えるアンテナは現役を引退した広報用。
展示の中にはゲーム的なものやプリクラもあるので、家族連れもそれなりに楽しめる。
見学記念にもらえるキーホルダー。鰹のデザイン、個人的には気に入っている。
通信所の近くには、ちょっとしたオフロードが多い。中には廃道になっているような荒れた道もある。
御宿駅近くにある「レストランなかむら」。千葉県夷隅郡御宿町久保2225
御宿から鴨川までは、国道を避けて海沿いの道を走ることをオススメする。クルマが駐められる絶景ポイント多し。
曽呂温泉のお湯は真っ黒。蛇口からも真っ黒なお湯が出てくる。
おもむろに服が飾られている部屋。地元のおばちゃんが買っていくのか。
棚田は生物の宝庫。様々な生き物が棲んでおり、環境が良いことが窺える。
棚田の上にある「棚田倶楽部」。米や地元の野菜などが買える。
棚田から反対の山の上に見えるのは峯岡山分屯基地。首都圏を守る防空レーダーなどがある。