今回のジム探は、都内にある安藤建築を探検中。
普段は「誰が建てた」とかあまり気にしない建築でも
建築家ひとりにスポットを当ててその作品を探してみると
意外とおもしろい探検になる。
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都市のアイコンになっている安藤忠雄の建築はいくつもあるが、東京に散在する作品の代表的なものと言えば、六本木の東京ミッドタウンにある「21_21デザインサイト」。ここはデザイン専門の美術館で、三宅一生や佐藤卓、深澤直人といったそうそうたるデザイナーがディレクターを務めている。で、建物の設計が安藤忠雄なのだから、デザイン好きにはたまらない場所だ。
2007年に完成したこの美術館を、安藤は「日本の顔としての建築」というコンセプトで造ったというから、相当気合いが入ったに違いない。それを表すかのように、当時の建築技術をマックスに使って造られている。
写真を見ていただければ分かるが、美術館はタープのようカタチをしており、空いた部分には大きなガラスが埋め込まれている。タープのような屋根の部分は、何と長さ約54m、面積約450㎡という巨大な1枚の鉄板を折られているのだ。またガラス部分は11.4mという日本一長い複層ガラスが用いられている。まさにクールジャパンの権化のような建築なのだ。
中はお得意の地階に空間が広がる設計で、窓側は高い吹き抜け構造で中は明るい。建物の裏側も安藤お得意の“雪見窓”っぽいスリット窓が取り入れられており、しかも1枚の壁しかないように見えておもしろい。
建築もさることながら、ここで開催される展覧会はグラフィック&デザイン好きには興味深いものばかりなのでオススメだ。
世田谷区尾山台にある建築もユニークな安藤作品のひとつ。ここアウディ世田谷は、その名の通りアウディのディーラー。アウディ・ジャパンの本社も兼ねている。安藤建築ということもあり、完成した当時はお披露目パーティも開かれた。
得てしてディーラーというのは、メーカーが指定するデザインのプロトコルがあって、そうそう自由にはデザインできない。その中でどれだけオリジナリティを発揮できるか、建築家には手腕の見せ所だろう。
1階の外観は他のアウディディーラーと大差ないように見えるが、2階以上は曇りガラスを前面に張るなどお馴染みの手法が駆使されている。また裏側や外階段、内部のはりなどは打ちっ放しコンクリートを使った定番。一番端には1台だけクルマが展示できるスペースがあり、安藤らしいワクワクさせてくれる空間がこしらえてある。
聞くところによると地下にクルマのストックヤードがあり、これが“秘密基地”っぽくてカッコいいらしい。機会があれば、ぜひ拝見したいものだ。
住宅や美術館、商業施設に留まらず、最近は駅を積極的にデザインしている安藤忠雄。その代表作とも言えるのが、東急線の渋谷駅だ。2008年に開業した駅だが、昨年は商業施設「ヒカリエ」が頭上に開店し、今年は営団地下鉄副都心線との相互乗り入れが開始されて、ますます賑わっている。
安藤忠雄がこの駅を設計するあたってテーマにしたのは「地宙船」。言葉では理解不能なのだが、地中に浮かぶ宇宙船ということらしい。この駅は地上1階地下5階という構造で、一番深い部分に東横線のホームがある。ホームから地下3階まで吹き抜けとなっており、ここに安藤がよく使うオーバルのデザインが用いられている。
改札口には繭を思わせる構造物があり、これは地階に向かうエスカレーターのエントラントとなっている。いろいろと安藤建築を観たが、他の作品には類を見ないユニークな造形だ。
渋谷駅のデザインには賛否両論あり、「安藤らしくない」とか「駅として使いづらい」という否定的な声も多いのは事実だ。だが、地下空間の創造を得意とする安藤に期待して完成した駅は、よく見るとほとんどの空間が未使用のままなのである。どういう意図なのか分からないが、フェンスで立ち入り禁止にしている。その未使用部分こそ安藤が意図した空間であり、それをスマートに活用できない日本人に未熟さを感じる。
都内にある駅で、もうひとつ安藤が手がけた場所がある。それが東急田園都市線の上野毛駅だ。段階的に建て替え工事が行われ、2010年に完成した。ホームをまたぐように上に道路が通っているため駅改札がふたつあるのだが、一体感を出すためにそれらを屋根で繋いでいるカタチになっている。
安藤忠雄的と言えばそうなのだが、地上構造物は意外と地味だ。ちなみに、関西の安藤作品に比べると関東のは地味だという専らの評判。やはりコテコテ好きの関西人に対して、関東人は薄味という認識なのだろうか?
中もいたって普通で、これならJR中央本線の竜王駅のほうがダイナミックな感じがする。南側の駅舎を横から見ると、スリットと曇りガラスを駆使したアーチ形の建築になっているが、これも少々地味な気がする。ただエスカレーターの十字架形の造形はいかにもで、やはり何かやらないと気が済まないのが建築家というものなんだろう。
全体的に見ると、駅としては非常にお洒落なのだが、安藤建築として考えるとちょっと安手。ぶっちゃけ、駅に併設されている交番部分が一番の盛り上がりを見せている。まあ、機会があったら観ておくのも一興かと。ちなみにこの駅のすぐ近くに某美大があるのだが、こういう駅に毎日触れた学生が将来どんなものを造るかも興味がわく。
さて最後の目的地は、今回の探検のフィナーレにふさわしい場所だ。京王線仙川駅のすぐ近くにある、その名も「安藤忠雄ストリート」。正式名称は「ACT+(アクトプラス)地区」と言い、この辺りの土地を持つ地主が安藤忠雄に街作りの設計を依頼したことからスタートした。
2004年に完成した分譲マンション「シティハウス仙川」や「東京アートミュージアム」を発端とし、2007年に完成した「仙川デルタスタジオ」、2008年に完成した「調布市せんがわ劇場」、さらには最近できたばかりの「シティハウス仙川ステーションコート」など、約500mにわたって安藤建築が立ち並ぶ。
中には「うーん」という薄味建築もあるが、仙川デルタスタジオと東京アートミュージアムは見るべきものがある。仙川デルタスタジオは賃貸ビルで、三角の狭小地帯を上手に使って建てられている。長く続く打ちっ放しの壁と曇りガラスなど、安藤お馴染みの手法が前面に出ている。
建物としては使いづらそうだが、そこは男のロマン。一度はこういう建物で一国一城の主になってみたいものだ。現在、空き家状態なので河野隊長にアピオのショールームとして大プッシュしておいた。
東京アートミュージアムは小粒ながら、アート好きのハートをゲットしてやまない建築だ。こちらも狭小の三角地を利用して造られているが、3階建て相当の高さの吹き抜けにして魅力的な空間を創造している。
非常に面白かったのは、打ちっ放しRCで行程上できる穴を、アート作品を掛けるためのフックに転用していることだ。これは安藤忠雄のアイデアなのか分からないが、地中美術館などでも見られない手法だ。
内部は面積の小さい窓で明かりがコントロールされ、日中は天候に関わらず心地のよい光がさす。ここまでいくつかの安藤建築をご紹介してきたが、ここはぜひ観ていただきたい建築。もちろんここで行われる展覧会も、興味深いものが多い。
というわけで、今回は安藤建築にフォーカスをあてて探検をしてきた。僕らの周りにはたくさんの建物があって、中には有名な建築家が設計したものも多い。そんな建築を鑑賞して回るのは大したお金がかからない割りには、結構おもしろい。今回の安藤忠雄をはじめ、隈研吾や磯崎新、丹下健三など日本には世界に誇れる建築家が実が多いのだ。誰か1人に絞ってその作品を巡ってみると、かなり心が豊かなになったりする。
さて、次回は栃木県のB級グルメと探検隊オススメスポットをご紹介します。お楽しみに!