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12.07.31

ゼッケン:100 ドライバー:菅原義正 / ナビゲーター:高橋 貢

ゼッケン:100
ドライバー:菅原義正(左) / ナビゲーター:高橋 貢(右)

ダカールカミオン顔負けの軽量化戦術

対する菅原号。こちらはオリジナルのセッティングを随所に見つけることができる。まず脚まわり。前後リジッドリーフのダカール・カミオンを長年セッティングしてきた自信から「サスはダンパーよりコイルだよ」と言い切る菅原さん。フロントのコイルスプリングには自分で設計したオリジナル品を装着。リアには信頼性を重視してシエラ用の純正コイルを入れている。

実はホイールも純正のテッチンのまま(スチール製)。これはアルミより柔軟性のある鉄のほうが「衝撃を吸収する」「いざという時叩いて直せる」という経験から選んだもの。もちろんスチール故に重く、せっかくの軽量化策も半減するのだが菅原さんは譲らない。この辺り「信頼性はメーカーが実験を繰り返した純正品に軍配が上がる」とする菅原さんと「よりクルマや走り方に合ったカスタマイズこそ大切」とするAPIO陣営と考え方が明確に異なるところだ。念のため付け加えておくが、過去の大会でAPIO製軽量アルミホイールでトラブルを起こしたことはない。

ただし、コイルスプリングの大切さを強調される割にダンパーは超一流どころを採用。なんとUS“キング”製でオイルリザーバータンク付きの単筒式高圧ガスショックを前後に奢っている。これはオイル量から換算するに尾上号のダンパーより熱ダレに強くレース専用故に性能は明らかに有利。でも尾上さんは譲らない。それは、自社製品に対する誇りと愛情があるからだ。この辺りの対称性も非常に面白い。

徹底した軽量化でリアドアはFRPどころかチャック開閉の幌にしている。

そして菅原号の極意とも言えるのが“軽量化”だ。ボンネットや左右ドアは互いにFRPとなる尾上号と同じだが、リアドアはFRPどころかチャック開閉の幌にしている。さらにAPIO陣営にはオフレコだが(笑)、FRP製のAPIO旧型バンパーはAPIOに内緒で型取りした上でさらに軽量に製作しなおしている。

それだけではない。ラリーモンゴリアのレギュレーションの隙を突き、車載するスペアタイヤ2本のうち1本はホイールを組まず、タイヤのみにするという徹底ぶり。これは履き続けているヨコハマ・ジオランダーM/T+がラリーディスタンスでもパンクがないことから着想した作戦だが、「パンクなんてさせない」という菅原さんの自信の表れでもあるだろう。

さらに彼らは自身の減量化を実施。ナビの高橋さんは菅原さんが会長を務める「日本レーシングマネージメント」の新入社員だが実際にかなりの減量に成功したという。そして話はそれだけでは終わらない。彼らは競技当日に着る服も履く靴も全て軽量素材のものをチョイス。もうここまで来ると軽量化は「執念」と言うより他にない。

菅原さんは言う。「ダカールのカミオンを造っていてもね、俺達は運転席へ登るステップが僅か100gでも軽くなるようなら作り替えてるんだ。それこそボルト1本まで交換しているよ。軽量化はね、“これでいいや”って言ってしまったあら、その時点で終わりなんだよ」実に重みのある言葉である。

これに対し、エンジンや吸排気系は基本的に何もいじっていない。クルマの生命線に当たる部分は自動車メーカーがクルマに与える安全率をそのまま活かす。それが、お金をあまりかけずしてラリーの長丁場で故障しないクルマを造る、菅原流の極意なのだ。

ただしこれは各構成パーツの弱点を熟知していて、それをカバーする運転ができる菅原さんならではの戦法。数年間、同じジムニーでモンゴルのオフロードに挑み、何事もなかったかのように帰って来るのは至難の業。それだけクルマに優しい運転をしているということだが、ビギナーが真似をすると痛い目に合う可能性もあるので、十分に気をつけよう。

渡河の時に活躍するであろうお手製シュノーケル

話は戻って吸排気系。ここで菅原号はひとつ面白い取り組みをしている。モンゴルでは少数ながら増水した河川を渡ることがあるらしく、各車とも吸気系への防水対策を行っている。ここで尾上号はボンネット内の吸気口付近にAPIOの「ウオーターブロック」を設置。グリルとライトの間から押し寄せる水を一時的に遮蔽することで対応している。(詳しくはコチラ)

これに対し、菅原号はよりフレッシュでクールなエア、つまり空気密度の高いエアを吸気口に採り入れるため、吸気口手前のグリルをくり貫くという真逆の処理をしている。なおかつボンネットにエアアウトレットを設けることで、熱気がエンジンルーム内に溜まらないように気を遣っているのだ。では渡河の時はどうするか? そこで活躍するのが写真のお手製シュノーケル。渡河は一瞬のこと。それよりも巡航時に得られるクールエアを優先したのだ。

これら、菅原号の軽量化やフレッシュエア対策がスピードにどう影響するのか? 尾上号の加速性&安定性の増加が勝敗にどう関係して来るのか? ハッキリ言えることはモンゴルのラリー・ディスタンスが3,250kmにも及ぶということ。それにも関わらず毎年この両者は秒単位で熾烈な戦いを演じているということ。果たして、その結果はいかに。これはある意味、ロンドンオリンピックよりも面白い因縁の争いだ。

<文:河村 大 写真:山岡 和正>

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