霧に包まれた雨の林道と
その先に浮かぶ二つの虹
秋雨の隙間をついて、高所にある穴場のキャンプ場へ。
繁忙期を超えて静けさの戻った高原には、初秋の風が吹いていた。
PHOTO&TEXT/山岡和正
メーカーや企業広告写真などコマーシャルフォトを中心に、
対象物を選ばず多方面で活躍するフォトグラファー。
特に車やアウトドア、旅などには定評がある。
日本の林道の有識者とも言われ、四駆でのオフロード経験値も高い。
ウェブサイト:http://kaz-yamaoka.com/
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降り続く雨に止む気配はない。 居座る秋雨前線と突発的にやってくる台風の影響で、しばらく青空を見ていなかった。アウトドアへ出かけたいのだが天気のせいで思うようには行かず、ストレスはたまる一方である。天気予報とのにらめっこも飽きたころ、待ちに待った晴れマークが週明けの予報に現れた。長野県あたりの天気が特に良さそうなので、高度が高く涼しいと思われる八ヶ岳の東側周辺をめざして旅に出た。 中央自動車道を西へ走っていると、上空にはしばらくぶりに青空が顔を見せている。雲は多めだが天気は何とか持ちそうである。 須玉ICを下りて、食材を入手するために近くのスーパーマーケットへ立ち寄った。地のものは無いかとあちこち探して、信州ハム製のウインナーをゲット。その他諸々をカゴに入れた後、珈琲豆を探しに売り場に行くと軽井沢に本店を置く「丸山珈琲」のコーナーを見つけた。そういえば長野方面の大手スーパーではこの陳列棚をよく見かける。たくさんの種類があるので悩んでいると、メーカー販売員のお姉さんから声をかけられた。どうやら出張販売に来ているようである。好みのコクや酸味などを細かく伝えると「それならこれですね」とダークローストの豆を選んでくれた。少し待てば試飲用にドリップしますとのことだったが、時間に余裕もなかったので、心残りだがノマドへ戻り出発した。
ガソリンを入れた後、国道を少し北上して脇道へ入ると、直ぐに林道への入り口が見えてきた。高度を上げていくと雲の中に入ったらしく、霧が立ち込めて辺りを覆い始めた。視界が悪く、前方の道が良く見えない。路面がダートになると、泥濘地状態になり、あちこちに大きな水たまりも出来ている。深いところでも20cmほどなので脅威とはいえないが、ノマドの下回りを汚すと面倒なので泥水が飛び散らないようにと慎重に進んだ。霧に包まれた林道はいつものそれとは違い、幻想的で美しかった。写真を撮ろうとエンジンを止め車外に出ると、森は深い静けさに満ちていた。鳥の声や、風に揺れる木々の音さえも聞こえてこない。まるで時が止まったようだ。前方を照らすヘッドライトの光軸上に踊っている、霧の微細な粒だけが時間の存在を教えてくれた。 森を抜けると空が広くなり、砂利が敷き詰められて走りやすい路面へと変わった。道の両側にはずっと先までススキが群生していて、穏やかな風に揺れている。まるでラリーのゴール地点で観客が歓声を上げているようにも見え、可笑しかった。時折、雲の切れ間から陽が射して天候は回復したように思えたのだが、急にパラパラと雨が降ることもあり微妙な天気は続いている。 その先でほどなく県道へ合流し、宿泊予定の野営地へと向かった。
キャンプ場のフリーサイトは広々とした草地で、数名のソロのキャンパーが個々のキャンプサイトでくつろいでいた。エリアの端にノマドを停めて、車中泊の準備に取り掛かることにする。 夕食にはまだ時間が早かったので、一息入れようと珈琲の準備をしていると、他のソロキャンパーたちがスマホを片手に浮足立っている。何事かと振り返れば、谷向こうの山の上に大きな虹が掛かっていた。目を凝らすとその外側にももう一つの虹が浮かび、二重になっているではないか。 これも天気雨のおかげなのだろう。 水害など、人間の生活を脅かすこともある雨だが、こんなに美しい風景を見せてくれることもあるのだ。自然は残酷な時もあるが、優しい面もあるのだとあらためて思う。その光景を、時間を忘れてしばらく見上げていた。 七色の色彩の透き通った光は雨粒の名残を残した空に大きく弧を描き、そして少しづつ空に溶けていった。
雨の林道は暗く寒々しい。光の届く日常から引き離されて、別の世界の気配に包まれていく。ふと、このまま元の場所へは戻れないのではないかという錯覚に囚われてしまう。それこそが、森の木々に抱かれた道だけが秘める、静かな魔力であり、魅力でもある。
山の峠付近に差し掛かったところで雨が弱まってきたので、小休止にブレイクタイムをとる。目線を上げると、遠く連なる山々には陽が射し始めていた。淹れた珈琲のほのかな香りが、ゆっくりと周囲の緑に吸い込まれていった。
軽井沢創業のブランド「丸山珈琲」。提供するスペシャリティーコーヒーとは、味や香り、産地、産地、生産方法などが明確で特別な価値があると認められた珈琲である。種類も豊富にあるので、色々と試してみたい。