JIMNY LIFE ジムニーをとことん楽しむ僕らのライフスタイルマガジン JIMNY LIFE ジムニーをとことん楽しむ僕らのライフスタイルマガジン

CATEGORY MENU

ON THE STREET BURGER
VOL.001
中央線ガード下の商店街に潜入せよ ~ FATZ'S [東京・高円寺]
中央線ガード下の商店街に潜入せよ ~ FATZ'S [東京・高円寺]

中央線・高円寺駅のガード下より続く商店街の一隅に
アメリカ人が営む小さなハンバーガーショップがある。
彼の生まれは東京三鷹――ハンバーガーには日米二国の魅力が同居する。

高円寺中通商店街

高円寺純情商店街前のジムニー

はじめに――私はクルマの運転が出来ない。


正確に言えば「もはや」出来ない。かつてごく一時期は動かすことが出来た。しかし今ではもうその方法はもちろん、路上に引かれた線の意味すらキレイさっぱり忘れている。我が歴史において自動車の運転は「ロストテクノロジー」である。


そんな私が東京は高円寺のハンバーガーショップへ車で行くことになった。店の名は「FATZ'S(ファッツ)」。普段なら中央線の駅を降りて3分で行ける店である。車でなんて、いや、無理だろうと思った。さらにジムニーを入れた店の外観写真を撮ることになった。これも無理だと思った。なにせ駅前商店街の奥また深くにある店なのだから。

高円寺中通商店街

それでも一応「店の前の通りに車は停められるか」訊いてみると、店からは「法律上大丈夫ですが、おすすめしないです」との返答。朝早くならまだしも、日が昇るにつれ自転車と看板で道幅が次第に狭くなってゆくという。


仕方無いのでジムニーの写真は駅前のロータリーで撮影することにした。JR高円寺駅の北口、ねじめ正一の小説で有名な「高円寺純情商店街」がある方の口である。


もっと他に行き方もあろうに、その経路に「商店街突破」という大胆この上ないルートを選んだのは、運転手であるオンザロードの編集・鈴木洋一さんである。早稲田通りから住宅街へ折れると、道幅にこそ不安は無いが、右だか左だか、道行く先に常に微妙な角度が付いた道が続き、何だか一直線で無い。角を曲がったので、ふいと前方を見ると、急に道が細くなった。


進むうちに「高円寺中通商店街」を駅前へ向かって遡っていることに気付いた。道の上にまでハミ出して看板を置く店や、自転車を停めているのが確かに目立つ。軒先まで商品を並べている店もある。道幅はギリギリ。前後左右に歩行者。対向で自転車。今にも当たりそうだ。何たる無茶……。


しかし不安をよそにジムニーはスイスイと進んで行く。座席の高さから想像されるより縦にも横にもはるかにコンパクトな車なので、センチメートル単位の注意を強いられたのは結局一度きりで、後は歩行者のペースに合わせるばかりの実に静かな落ち着いた走り。目的の駅前へ難無く到達することが出来た。

三鷹生まれのアメリカ人・Jonさんの店

マンションの中庭・最深部にFATZ'S

店主Jon Levin(ジョン・レビン)さんは東京は三鷹生まれ。1952(昭和27)年、東京ユニオン・チャーチの"Minister"としてお祖父さんが来日して以来、3代続く在日アメリカ人だ。


店は中通商店街を一本入った細い通りから、さらにまた奥へ引っ込んだ場所にある。マンションの中庭のようになったスペースの最深部なので、店の外観にジムニーを写り込ませるのは、どう頑張っても無理である。

大柄なアメリカ人を想定してカウンターを「5cm」高くした

日本に20年・米国10年と、両国の言語・文化をバランスよく身につけたJonさんだが、spiritやfeelingはどこまでもAmericanである。


店内8席の小さなハンバーガースタンドを始めたのは2年前、2011年春4月。一人でやりたかった。そしてお客さんと話がしたかった。なので一人でも切り盛れる、カウンターだけの店を造った。


店のデザインは友人と一緒に考えた。タイルを自分で貼り、壁は明るい赤にした。カラフルなメニューブックのデザインも含め、大胆かつポップな色遣いにはやはりどこか異国な、異文化な感覚がある。


大柄なアメリカ人を想定して、敢えてカウンターは「5cm」高くした。多くの日本人にはその分、腕を乗せるような恰好になって、ちょっと高い。

アメリカ人の感覚と遺伝子

パティには国産牛肉を使用。これがJonさんの手にかかるとニオイといい、何故か米国的になる

パティには国産牛肉を使用。これがJonさんの手にかかるとニオイといい、何故か米国的になる。


何か特別なことをするワケではない。挽き方もごく普通。近所の肉屋に任せている。それでも彼が作るとそこに「アメリカ」が現れるから不思議だ。それが彼のfeelingでありDNAなのだ。


サイズ120g。脂分20%。赤身主体のleanな挽肉がギュッと密集したそれは、ポソッとややドライだが、全体にはふっくらと食べやすい。オートミールが乗るバンズも実に米国的だ。


冒頭のハンバーガーは人気メニュー「THE WW(ダブダブ)」1,500円。パティ2枚、ベーコン2枚、チーズはチェダーとウィスコンシン州産・ハバーティの2種類。チーズの選び方にも国籍の違いを感じる。

ノースカロライナのBBQ、Pulled Porkのサンドイッチをアレンジした「The Carolina」

だがFATZ'Sのハンバーガーは単なる米国の再現ではない。日米どちらにも依らず、二国のよいところを柔軟に取り入れた、純粋に「おいしいものが作りたい」のだとJonさん。彼の作り出すものはその巨体からは想像もつかぬほどに、そして我々日本人が思いも及ばぬほどに繊細で緻密だ。


お母さんの故郷ノースカロライナ州のBBQ、Pulled PorkのサンドイッチやSloppy Joeなど、期間限定メニューには自国の料理や食文化を紹介するものが多い。FATZ'Sのベースにあるのは母国アメリカの誇るべき家庭料理であり、そして偉大なるmomの味なのだ。

< 文と写真:松原好秀 >

FATZ'S [東京・高円寺]

― shop data ―
所在地: 東京都杉並区高円寺北3-21-19 ライオンズプラザ高円寺E号
アクセス: JR高円寺駅歩3分
駐車場: 高円寺北三郵便局周辺のコインPがオススメ
TEL: 03-6762-3939
URL: http://fatzs.lolipop.jp/top.html
オープン: 2011年4月29日
営業時間:
 火~土: 12:00~15:00, 18:00~22:00
 日曜日: 12:00~18:00
定休日: 月曜日・第3火曜日(要確認)

高円寺駅前のジムニー
この道幅にジムニー停めての撮影は困難
自分はオバマと同じ"Third Culture Kid"だとJonさん
思い入れ深いサンフランシスコ"Anchor Brewing"のクラフトビール
オートミールが乗るバンズも実に米国的
自家製サルサとワカモレの「EL CABRON(エル・カブロン)」1,200円。意味は「バカタレ」
ホリデーシーズン限定「ザ・高円寺クラブ」1,300円。刺さっている"frill pick"は米国直輸入品
ミンチしたベーコンと牛挽肉を1対1の割合で混ぜてパティを作る「The 50/50」1,300円
店主・Jon Levinさん。米国での10年は加州北部、Bay Areaで過ごした
週末限定の名物、Jonさんのmomお手製のケーキ。写真は「granny swain's パンプキンパイ」500円
夜のFATZ'S
そして夜の高円寺は一大飲み屋街と化す