ジムニー車中泊ひとり旅 VOL.40「長野県・栄村」
Traveling alone with jimny.
清涼な初秋の風に吹かれて
雲海を眼下に望んでみる
Photo & Text / 山岡和正
雑誌、WEB、カタログなど中心に、対象物を選ばず多方面で活躍するフォトグラファー。
特に車やアウトドア、旅などには定評がある。
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暑さと冷房のダブルパンチで疲れ果てていた。 温泉付きのキャンプ場で英気を養おうとピックアップしていたキャンプ場へ連絡してみると「そこもいいけれど昨年オープンした高地のキャンプ場も良いですよ」という。聞けばどちらも栄村が管理しているようだ。 新しいキャンプ場の方は本来スキー場なのだが、雪の無いオフシーズに限り3組限定でキャンパーを受け入れているらしい。「最近は雲海もよく現れますよ」との最後の一言が決定打となって、温泉という2文字は何処かへ消え失せ、スキー場の中腹にあるキャンプ場へ行ってみることにした。
予想よりも随分と道路の流れが速く、食材を仕入れてキャンプ場に到着したのは昼前だった。聞いていた通り普通にスキー場である。 麓にあるセンターハウスから、スキールートを横切りながら細い道を九十九折りに上っていくと、中腹に広いキャンプサイトが現れた。 一望すると、足元には民家や川が、遠くには無数の山々が霞んで見える。 いつもは目的地周辺の林道を堪能してから現地入りし、野営準備に取り掛かるのだが、ここでは少し違った。事前に聞いてはいたのだが、スキー場の山頂付近から西へと林道が延びているのだ。 まだ時間には余裕があるので、野営の準備は後にして林道へと向かった。
スキー場のエリア内は当たり前だが管理されているのできれいに砂利が敷かれていて走りやすい。バックミラーを見ると麓の田畑や遠くの山々が映っていて、高度の高い場所をさらに上っているのを再確認する。 山頂付近のコーナーを曲がってスキー場から離れたとたん、急に景色が一変した。辺りは濃い緑に覆われて道は泥濘み、しっとりとした空気が漂っていた。 ブナが群生している場所もあり、しばらくぶりに、こんなに美しい森を見た気がする。 しばらく行くと、道の左右からススキや笹の葉が張り出してきて前方が見えなくなってきた。枯れた茎や木の枝が車体に干渉する訳ではないので車へのダメージはないものの、道の様子が全く分からない。そのうちに水の流れで抉られた溝がJB74を上下左右に揺す振る。茂る草木の隙間から辛うじて見える前方の道を確認しながらゆっくりと進んだ。もちろんトランスファーは四駆のローである。 扁平率の高いタイヤとリフトアップのおかげで、問題なく凸凹エリアをクリア脱出して先へと進んだ。 そしてまた深い森に吸い込まれて行く。
キャンプサイトに戻り、野営の準備をして早めの夕食を済ませた。翌朝現れるかもしれない雲海を見るために、朝4時には起きたほうが良さそうだ。それを考慮して早めに就寝しようと寝袋に入った途端に、雨が降り始めた。ルーフを叩く音がうるさく感じるほど、結構な雨量である。それでも、疲れからか気になる雨音も遠く感じはじめ眠りに落ちていった。 アラームの音で起きた時には、外はすでに明るくなっていた。 辺りには霧が立ち込めている。 これでは雲海どころではないなとあきらめかけていると、少しずつ視界が開けてきた。 昨日はクリアに見えていた麓の集落や田畑は雲の中だが、遠くの山々の稜線ははっきりと見えてきた。そして雲の隙間から眩い光と天使の梯子が降り注いでいた。
林道はブナを中心として、密度の高い豊かな森を抜けていた。人工物の欠けらもなく、清々しい空気とともに森の体内を進んでいる感覚が心地よい。水の流れによって削られた浅い溝が時折現れるが、基本は平坦でいたので、走りやすかった。