JIMNY LIFE ジムニーをとことん楽しむ僕らのライフスタイルマガジン JIMNY LIFE ジムニーをとことん楽しむ僕らのライフスタイルマガジン

CATEGORY MENU

ON THE STREET BURGER
VOL.011
犬とワーゲン、そして雪の話~Sherry's Burger Cafe [東京・武蔵小山]
犬とワーゲン、そして雪の話~Sherry's Burger Cafe [東京・武蔵小山]

アーケード商店街で有名な武蔵小山に
ご近所さんから名だたるワーゲン通までが集う
ちょっと変わったカフェがある――。

雪を被ったTS7と店主・上野さんの愛車、1969年式フォルクスワーゲン・T3、ヴァリアント

「今日初めて4WDに入れてみた」とGAOさんは言った。ジムニーに一年以上乗り続けて、二輪から四輪に駆動を切り替えたのは今日が初めてだという。2014年2月14日の午後1時過ぎ――翌未明にかけ関東甲信地方に積もった記録的な大雪が、降り出して間もない頃の話である。

2014年2月14日、雪

この日はイラストレーターGAO NISHIKAWA(ガオ・ニシカワ)さんの事務所がある祐天寺(ゆうてんじ)の近所、武蔵小山(むさしこやま)が取材地。この春のセンバツに出場する都立小山台高校の地元である。5分とかからぬ道中の話題は自然、「足回り」の心配に及んだ。

目的地を一度やり過ごして、目黒不動尊の前に車を停めたのが午後1時48分

このコンプリートカーTS7は「ジオランダー M/T+」というタイヤを履いている。マッドテレーンタイヤ。所謂スノータイヤ、スタッドレスタイヤでは"無い"が、APIO河野社長からは「降りはじめの雪ならば、四駆を過信せず、慎重に運転すればOK」と取材前日、助言があった。


さりとて走りを楽しむような天気で無かったことは周知の通り。有名な商店街「パルム」のアーケード下を通過したのが午後1時34分。目的地を一度やり過ごし、目黒不動尊の前に車を停めたのが午後1時48分。林試の森公園東門着が午後1時57分――。


最初は空全体がぽーっと湯気立つような感じだったのが、ほどなく屋根や梢が白く霞みだして、店に着いた午後2時14分頃には道路が薄っすら色づきはじめ、車よりまず人間が転ぶ心配をせねばならないシャーベット状の路面に変わりつつあった。


午後4時18分、店の前に車を並べてフォトセッションを開始。片やAPIOジムニーTS7。もう一台は店主・上野さんの愛車、1969年式フォルクスワーゲン・T3、ヴァリアント。

上野さんの愛車、1969年式フォルクスワーゲン・T3、ヴァリアント。ポルシェのバケットシート、アロイホイールほか、街乗り快適仕様

振りしきる雪はファインダーの向こうを斜めに流れて見る間にレンズを滲ませ、指先は寒さにかじかんで、ボタン操作もままならない。そんな中……目の前でキラキラと光るジムニーの濡れたヘッドライトのカッコよさ! 天気に動じぬ白いヴァリアントの凛とした佇まい!


そうしたものを我々は雪中、夢中になって撮り収めた。しかし今思えば、傍目には随分と奇妙な光景に映っていたに違いない。ここは大黒ふ頭に非ず。普段ならコンプリートカーならぬシルバーカーを押すお婆ちゃん達の姿が絶えぬ商店街の一角なのだから。

§ §


店を後にしたのが午後4時47分。心配された足回りについては幸い、特に「見せ場」も無かったが、往路5分の道のりは、復路、その倍以上の時間を要して、そろりそろり、ゆっくりと窓の外を流れて行った。関東甲信一面の雪に覆い尽くされたのはこの夜のことである。

ワーゲンからバーガー

ホイールキャップとカムシャフトでできたライトスタンドは、世田谷・烏山の内燃機屋が作ったワンオフ

Sherry's Burger Cafe(シェリーズ・バーガーカフェ)」の店主・上野さんと、年始の記事で紹介した代々木公園「ARMS」の岩田さんとはワーゲン仲間である。


10年前、二人は調布のとある"ワーゲン屋"で知り合った。そして当時、岩田さんが東京・本郷の「FIRE HOUSE」で店長をしていたことから、上野さんは専門店のハンバーガーを知るようになり、後に会社を辞め、独立開業を目指すことになった際には、岩田さんの紹介でその「FIRE HOUSE」に勤めている。


岩田さんと出会った頃、上野さんは66年式のT3に乗っていた。その後65年式T1に乗り換え、今の69年式T3は3台目のVW。T1・ビートルではよくドラッグレースに参戦した。ブラケットクラスの年間王者に輝いたこともある。排気量1,775cc、ベストタイムは400mを14秒2。レーシングエンジンは自分で組立てていた。過去に3基組んだことがある。

ビールサーバーのタップはレース用のシフトノブ。作者はワーゲン乗りなら知らぬ者なし、「FLAT4」の店長

そんな濃い趣味がきっかけで始めた店であるだけに、店内「言わないと気付かない」程度に、実は趣味の色が濃い。


コンロッドを埋め込んだハンガーフックは序の口。ライトスタンド、戸棚のノブ、さらに客席からは見えないビールサーバーのタップまで、どれもワーゲンのパーツを使用している。店舗をデザインしたプロダクトデザイナーはドラッグレースの対戦相手だった人だ。

「シェリー」から「てるさん」

入って手前はNYの地下鉄駅のイメージ。奥半分は50~60年代のラウンジ風に

バーガーメニューは全13品。フレンチフライorチップスとミニコールスロー付。この日は中から「ベーコンチーズバーガー」1,300円を。


肉は、近所でフレンチを営む元ホテルの料理長より紹介された、四国香川の精肉店より仕入れた逸品。赤身のおいしさが伝わる、やわらかく、しとっとほぐれる良品でサイズ120g。そこにメルトしたチーズと強く焼いたベーコンの和したコク味が重なり、深煎りのコーヒーと合わせれば得も言われぬ香ばしさに。


バンズは東新宿「峰屋」の酒種天然酵母。トマト・オニオンは刻んで甘いレリッシュと一緒に。実に東京的な、カフェ的な、軽くてやさしいバーガーながら、肉の上質であるのが効いて、その味だけでも十二分においしい一品。食後もう一個行きたくなるのがその何よりの証だ。

§ §


最後に「シェリー」の話を。黒と茶のメスのミニチュアダックスフント。店名にするほどの愛犬だったが、店の工事が始まった翌月、老衰で死んでしまった。訪ねたこの日は奇しくも命日。3年前もやはり雪だった。これも何かの縁、以下の曲をシェリーちゃんに捧げたい。

上野さんの愛犬シェリーちゃん。享年16歳。生前はご主人・上野さんのレースもよく観戦した

「シェリー」と来れば、まずはフォー・シーズンズ、1962年の大ヒット曲。愛犬の死を悼んだヒット曲というのもあって、ヘンリー・グロスの"Shannon"は'76年全米6位に輝いている。ピーター・フランプトンの"Rocky's Hot Club"('77)も愛犬について歌った曲。キャプテン&テニール"Broddy Bounce"('75)の"Broddy"はジャケットに写る2匹のブルドッグのうちのどちらかのことだ。


そのシェリーちゃんに代わり看板犬を務めるのは「てるさん」という同じくオスのミニチュアダックスフント。てるさん会いたさに来店する客もいる人気ぶりで、みごとその大役を果たしている。


そんな歴代2匹の犬と3台のワーゲン、そして2月の大雪の話――。

< 文と写真:松原好秀 写真:GAO NISHIKAWA >

Sherry's Burger Cafe [東京・武蔵小山]

― shop data ―
所在地: 東京都品川区小山3-7-12
アクセス: 東急電鉄目黒線 武蔵小山駅歩5分
駐車場: 近隣にコインP多数あり
TEL: 03-6426-8751
URL: http://sherrys.livedoor.biz/
オープン: 2011年5月26日
営業時間: 11:30~15:30(15:00LO), 18:00~22:30(22:00LO)
       ※定休日前日のみ ~21:00(20:30LO)
定休日: 月曜日(祝日の場合、翌火曜休。要確認)

有名な商店街「パルム」のアーケード下を通過したのが午後1時34分
そしてパルムより少し離れてSherry's Burger Cafe。2011年5月のオープン
午後4時18分、店の前に車を並べてフォトセッションを開始。こちらAPIOジムニーTS7
片や上野さんの愛車、T3・ヴァリアント。1969年製の「ヤナセ物」で右ハンドル
雪に濡れたヘッドライト(午後1時57分ごろ)と、雪の張り付く窓(午後4時28分ごろ)
店内「言わないと気付かない」程度に実は趣味の色が濃い。例えばこちらはコンロッドを埋めたハンガーフック
ライトスタンドやビールサーバーのノブ、他にも店内随所に「仕掛け」が施されているのでどうぞ各自お探しを――
こちら以前乗っていた65年式白いT1・ビートル。ドラッグレースの年間王者に輝いたこともある
人気メニュー、チリチーズ&チップスセット600円はビールのつまみに最高
店主上野さん。これまでにエンジン3機を組んだ腕前
人気の看板犬「てるさん」くん。推定7~8歳。時折見せる渋みのある表情が男前
午後2時過ぎ、林試の森公園東門前にて。この夜東京は白一色に埋め尽くされた