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ON THE STREET BURGER
VOL.021
バイクとバーガー~UNCHAIN FARM [埼玉・草加]
バイクとバーガー~UNCHAIN FARM [埼玉・草加]

草加で一番外国人が集まる店。
カリフォルニアでの牧場経験を持つ店主は今、
モトクロスバイクの魅力にぞっこんハマっている。

問題の工場の前で張り込むAPIOジムニーコンプリートカーTS7、「ハンバーガー号」

「空飛ぶハンバーガーを見た」という情報が埼玉県東部より複数寄せられた。何でも、地上15メートルほどの低空をしばし飛行したのち、とある工場の上空で静止して「チーズビーム」と思しき黄色い光線を放った。その瞬間、辺り一面に何とも芳ばしいにおいが立ち込めたという――。「んなバカな」とは読者以上にこの私が思っていることだが、務めとあっては調べないわけにゆかない。過去に類似の事件があったことも確かなようだし、ともあれGAO隊長とともに現地へ向かった。


問題の工場はこの橋の向こうにある。細心の注意を払いながら近づき、正門からやや離れた位置に構えて中の様子を伺うことにした。カーラジオから流れる"張り込み"のテーマはJoyce Williams "The First Thing I Do In The Morning"。もう秋も暮れ。街道の松並木が冷たい雨に煙っている……寒い。


こんな時ハンバーガー号の車体色は保護色になる。特に今日のような曇り空の日には風景に馴染んで目立ちにくい。つい先ほども散歩中の歩行者が気づかず、ぶつかりかけて……というのは冗談だが、いま真横を走り過ぎたバイクなぞは現にまるで気づいていなかった……と思っていると、橋の手前で折り返して、こちら目がけて戻ってくる。ハンバーガー号にぴたり近寄せ停まった泥まみれのバイク。ゴーグルを上げた顔を見れば、「……あっ、中村さん?!」

BratStyle

15分後、私たちは中村さんの店、埼玉・草加(そうか)の「UNCHAIN FARM(アンチェインファーム)」で、8時間かけて落とす自慢の水出しコーヒーで冷えた体を温めながら、中村さんのバイク話を聞いていた。


最近中村さんはモトクロスバイクに夢中で、川越のコースなどで走っては泥だらけのまま高速に乗って店先で洗い流す。今朝も利根川の河川敷に行った帰りだった。それまで舗装された道の上でしか走ったことがなかったのが、土の上で乗る楽しみ、遊びの中で乗るバイクを知り、今はそれが楽しくって仕方ない。

9年前、店を始めるに辺り、目ぼしいバイクは皆売り払って開業資金に換えてしまい、バイクの無い生活が3~4年続いた。また乗るようになったきっかけは、誰あろう、国内屈指のバイクビルダー、BratStyleの高嶺剛氏である。


今やカリフォルニア・ロングビーチへの出店を進める東京・赤羽の「BratStyle」は、もとはこの草加に在った。中村さんと高嶺さんは同い年。ともにアメリカのモーターカルチャーへの憧れを強く抱いていたことから、酒を酌み交わす仲に。「この面白い男が造るのは一体どんなバイクだろう」と乗ってみたくなった。


車種はヤマハのSR400。ボバーっぽく乗っていたのをビンテージ感のあるモトクロス仕様に改造したスクランブラーで、「モトクロスでありながら街中でもカッコいいオフロードバイク」として楽しんでいると中村さん。それはまさにジムニーにも通じる楽しみ。中村さんのバイクとジムニー。両者が行く手に見、ハンドルを伝って肌に感じているものは実は同じである。彼は同志。オープン前の店内に流れる曲はTim Cappello "I Still Believe"――。

カリフォルニアの大農園

中村さんのアメリカ好きの源は"映画"。お祖父さんが映画館に勤めていた関係で、幼い頃よりたくさんの映画を観てきた。中でも『E.T.』『グーニーズ』などのアメリカ映画に惹かれ、食事のシーンやBMX、スケートボードに乗って遊ぶシーンには「憧れしかなかった」。


長じて社会人――。釧路・別海町(べつかいちょう)にある牧場の求人を見て北海道へ渡った中村さん。一家4人で営むアットホームな牧場にその一員として迎えられ、働くこと1年。

その後東京へ戻り、別な仕事に就いていたところへ「これからは大農園の牧場のやり方を学ばねばならない」と先の牧場主がアメリカの牧場視察・研修を計画。中村さんもそれに誘われ渡米。LAから車で2時間半、173マイル離れた「ツラーレ(トゥーレアリ、Tulare)」という町の大農園で3週間を過した。ホームステイした「獣医のコナン」の家の前にあったダイナーのハンバーガーは、大味でおいしくなかったという。


帰国後、東京・本郷の名店「FIRE HOUSE」のハンバーガーが好きで通ううち、やがて働くように。「2週間でやめてやろう」と思っていたのが入ってみると面白くて、銀座のレストランと掛け持ちしながら2年。その時の店長が代々木「ARMS」の岩田さん。中村さんの持ち場・デリバリーサービスの長は赤坂「Authentic」の店主佐藤さんだった。

心の鎖を解き放て

昨日11月30日で9周年の、草加で一番外国人が集まる店。深夜1時まで営業。23時を過ぎてハンバーガーを食べに来る客も定着した。ハンバーガー19品。中から「テックスメックスバーガー」1,350円。以下、BGMにRay Charles "Unchain My Heart"を聴きながら――。


パティはニュージーランド産牛に和牛脂を合わせた115g。スマイルマークが印されたバンズは地元の名店「AOI」製。その下にサワークリーム。熟れたアボカド4分の1個。その下はチリビーンズにタコミートを合わせたもので、都合二晩寝かせて三日目に完成する労作。

もちりとしたバンズからパティまでスッと噛み切れて食べやすい。そこに例の"チリタコミート"に入るハラペーニョの辛味と、「日本人の好みに合わせた隠し味」として加えたカレースパイスの香りが印象的に利いて、鮮明な味わい。食べ頃のアボカドと影の主役・サワークリームがこれらの刺激をマイルドに馴染ませる。


皿に描かれたマスタードのスマイル(皿が白の時はケチャップ)が示す通りの、老若男女誰をも笑顔にさせる食べやすく・親しみやすいバーガーの店。ポップでカラフルな店内同様、あらゆる工夫で飽きさせず客を楽しませる姿勢が、メニューの端々から感じられる。


§§


帰り道。街道沿いに煎餅屋が多いのはここが草加だから。「クロスカントリーでありながら街中でもカッコいいオフロード車」ジムニーを今日も気持ちよく走らせながらGAO隊長、

 「いやー、ハンバーガーおいしかったね~」

あ……しまった、張り込み……。お別れはこの曲で。

< 文と写真:松原好秀 写真:GAO NISHIKAWA >

UNCHAIN FARM [埼玉・草加]

― shop data ―
所在地: 埼玉県草加市住吉1-7-4
アクセス: 東京外環自動車道・草加ICより10分
        東武鉄道スカイツリーライン 草加駅歩3分
駐車場: 近くにコインPあり
TEL: 048-924-7654
URL: http://www.unchainfarm.com/
オープン: 2005年11月30日
* 営業時間 *
月~土: 11:00~25:00(22:30LO)
日曜日: 11:00~21:00(20:30LO)
定休日: 無休(要確認)

空飛ぶハンバーガーの謎に挑むAPIOジムニーコンプリートカーTS7、我らが「ハンバーガー号」
BratStyle 高嶺さんとUNCHAIN 中村さんは飲み仲間
中村さんの愛車・ヤマハSR400。ボバーっぽく乗っていたのをビンテージ感のあるモトクロス仕様に改造した
自転車・スケートボードと、店内には「車輪」が多い
左2枚は中村さんが中学時代、実際に乗っていたスケートボード
ファイヤーキングのコレクションも店内数箇所に
カウンターに吊り下がるは店名の由来になった伝説のボクサー「アンチェイン梶」のグローブか
東京・押上(おしあげ)の姉妹店「cafe*SWITCH*」の店長を務める神田さん
こちらが押上「cafe*SWITCH*」。東京スカイツリー麓の好立地。予約客が絶えない人気店だ
店主中村さん。現在東京・曳舟(ひきふね)に3店目の出店を計画中
晩秋の綾瀬川の畔で