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12.12.28

【番外編】四国林道ジムニーの旅【その2】

全ては下調べから始まる

多くのライダー達から20年近く愛されているマップルだが、毎年更新され、これに勝る情報はない。

半月前、僕らはスカイプ会議を行った。ルートと宿を決めるためだ。皆が自宅に居ながら参加できるからだが、電話やメールの伝言ゲームよりずっと楽。気になるホームページも共有できる。「この温泉どう?」「料理はこっちでしょ」。いい大人が、まるで修学旅行前夜のようだ。

僕は林道を担当。資料は昭文社のバイク用「ツーリングマップル」を使う。林道の広さや荒れ具合、ワインディングの気持ちよさ、眺望、桜や紅葉のポイントから温泉、グルメ情報まで載っている。これにウェブの林道情報を併用して目星をつけるのだ。最後は地元の役場に確認の電話。「林道情報を聞きたいので観光課をお願いします」と伝えれば何らかの部署が対応してくれる。マップルの巻末に連絡先の一覧がある。

僕らが目指すのはオンよりオフ。ジムニーが活きるプリミティブなダート道だ。それだけに大雨や台風による壁面などの崩落後、復旧が遅れることも多い。季節により入れない道もある。だから事前に確認するのだ。それでもハズレた時のために別ルートも用意したい。ちなみに当初は全長87㎞の剣山林道への再訪も考えたがこの時は'11年秋の崩落で半分も走れない。そんなこともあって僕らは高知の大森川渓谷に白羽の矢を立てた。ここらは林道の宝庫なのだ。

早起きは三文の徳

山岡さん、いい絵を切り取るねえ。朝の林道の空気感まで伝わるって来るよ。

山岡カメラマンの“植物イメージカット好き”も相当なもの。

初日、海岸沿いのビジネスホテルに泊まった我々は翌朝5時に出発した。食事は6時からだったが待てば失うものが大きい。それは自然界のドラマチックな営み…朝の光を見ることだ。お握りを頬張りながらワインディングを飛ばし1本目の林道に入った頃、森が目覚め始めた。

シダの朝露が光り、ホトトギスが謳う。柔らかな斜光が林間に漏れ始め、立体感のある風景を創り出す。僕らはしばしクルマを停め、マイナスイオンを満喫した。カメラマン氏は植物の撮影に夢中。
リコーのGRとライカを使い分ける河野さんも一瞬の絵を切り取ってはニヤリ。見せ合って自慢合戦。「おお~」とか「ほお~」と言う声が何やら微笑ましい。朝夕の林道は匂いも空気感もまるで違う。早起きは三文以上のトクなのだ。

※このページの最後にフォトグラファー山岡氏の今回の林道脇でみつけた小さなネイチャーフォトギャラリーを設置しました。実は山岡さんはクルマのカメラマンってワケじゃなくて、風景からモデルから寺院から幅広く手がけている。詳しくはコチラのホームページへ。キレイですよ。http://kaz-yamaoka.com/

林道のセオリーを守ろう

それにしてもジムニーはよく走る。軽い体に頑丈な骨組み。ストロークに優れたサスに大きなタイヤ。そして信頼の直結四駆。いざという時にはローレンジを使ったトルクフルな走りも可能だ。こんなに小さな体に、ここまで優れたオフロード性能が与えられた本格乗用四駆は、世界広しといえどジムニーしかないだろう。林道でも大抵の段差は軽々と超えてしまう。それに轍と合っていて乗り心地がいい。これは生活道路であるニッポンの林道が軽四輪を主役としていることに因っている。大きなクルマでは反って大きめの石を拾うのだ。

そしてサーキットにセオリーがあるように林道にも定石がある。まずヘッドライトの点灯。存在アピールが大切だ。スローインファーストアウトは有視界で。ダートである以上、コーナリング中のブレーキはNG。すれ違い時は登りが優先。登るクルマを再発進させればスタックの可能性が高いから。段差や尖った石はなるべく避け、タイヤの横っ腹に無理はさせない…等々。狭い林道でもラインが選べるジムニーではこれが可能。オフロードで味わう人車一体の走りは堪えられないものだ。

それから「助手席の気持ち」を大切にしよう。林道にはガードレールのない断崖絶壁も沢山ある。そんな時、助手席が谷側だと実は相当に怖いのだ。「二度と乗りたくない」などと言われないためにゆっくり走ろう。運転手も周りの景色を楽しめるくらいがちょうどいいのだ。

ジムニーといえど複数台で走ろう!

ところどころのり面が崩落しているところがあった。こんなところはさっさと走り抜けよう。

ジムニーは普段、二輪駆動で走っているのをご存じだろうか。必要に応じて四駆にスイッチするのだが、そこにはハイ/ローふたつのレンジがある。これは10段変速の自転車と同じだ。普段使っている1~5速のギア比をまるごと低くしてしまう。するとスピードは遅くなるがトルクが出る。悪路に強くなるワケだ。ジムニーが小排気量でありながらオフに強いのはこのギアのおかげ。アップダウンの激しい林道でもローレンジの四駆はエンストしらず。エンブレも利き、とても扱い易いのだ。

そんなジムニーでもスタックはする。実際この日、前後のタイヤを脱輪させたクルマを見た。幸い慣性力で引っこ抜く緊急脱出用のクッションロープを持参していたので事なきを得たが、携帯も通じぬ山中でスタックしたらやっかいなことになる。

備えあれば憂い無し

この日、実は大森川周辺で遊び過ぎた。昼食の時間はとうに越え、お腹はペコペコ。そんな時、山岡カメラマンから天の声。「カロリーメイトいる?」「ホントに!?」「1本2万円だけどね」「…」。これは冗談だが、山中に入る時は必ず携行食と飲み物を用意したい。

迷ったお陰でお昼ご飯お預けの僕にはとってもイ~香りの焼き魚に見えていた。ううっ。

もうひとつ困るといえばトイレ。僕らはともかく読者に女の子がいたらこれだけは覚えておいて欲しい。林道にトイレはまず無い! そして長い林道はなかなか出てこられない! なのでトイレットペーパーは必須。アウトドアの世界ではよくあることなので、心の備えはしておいて欲しい。
 
そんな話をしながら随分人里離れた山を走っていた時、遠くから下って来る釣り人に会った。魚籠の中には40㎝はあろうかという巨大なイワナ。聞けば、ずっと追いかけ続けていた「ぬし」をようやくこの日釣ったのだという。しかもこんな山奥に独りっきりで。我々は、そのストイックな挑戦に感心しきりだったが、そのイワナの大きさに改めて四国とその自然の奥行きを知った。まだまだ開拓されていない道や楽しさは沢山あるはずだ。

2010年の秋に訪れた四万十川下流の佐田沈下橋。川幅も広く、橋も長かった。

その後、僕らは半日タップリ満喫した林道群を抜け安居渓谷でひと休み。そのまま安居川、土居川と経て仁淀川へ向かった。土井沈下橋に久喜沈下橋と四国を彩る石橋を巡りたかったからだ。沈下橋とは増水時に水面下に沈んでしまう橋のこと。他に潜水橋や冠水橋などの呼び名があるが増水時の濁流の抵抗をかわすため橋の上に欄干がない、もしくはあってもかなり低いことが特徴だ。ここをクルマで走る時のスリルはなんともいえない。

実は、四国はこの沈下橋のメッカ。高知県や徳島県だけでも100以上の沈下橋が現存する。絵柄としては川幅の広い四万十川のものがメジャーだが仁淀川には高知県最古と言われる橋も存在する。

まず訪れたのが長屋の沈下橋。国道439号線沿いに流れる土居川を注意深く見下ろしながら走ると見つけることができる。実はこの橋、片方が行き止まりで現在は使われていないのだが、それはそれ。とりあえずジムニーを置いてみる。いいねえ。四駆と川と沈下橋。似合ってる!

こちらが久喜の沈下橋。やはり幅は狭い。

そして次に向かったのが久喜の沈下橋。国道33号線沿いの生コンセンター脇から川へ降りていく先にある。「高知県の観光」というホームページによれば昭和10年に作られたもので、高知県最古の橋。川の真ん中にある大岩を橋脚のひとつに利用するという他にはない構造で2004年には国の登録有形文化財に指定されたという。確かにアーチ型のデザインは他では見たことがないもの。この辺りは仁淀川でも最も川幅が狭く、その激流に耐えうるように設計されたと記されている。この橋は今でも地元の生活道路。人々の暮らしを支えているのだ。

その後、僕らは中津渓谷の入り口にある宿に向かった。中津温泉 湯の森。温泉は硫黄の香りがほのかに匂うアルカリ性単純硫黄泉。ややトロっとした泉質で慢性皮膚病や糖尿病、高血圧症、神経痛、関節痛、冷え性などに効くという。徳に露天は木造の風呂が心地よく長旅の疲れを十分に癒やすことができた。いやあ。やっぱり林道旅には温泉が一番!! 食後は畳の部屋に布団を並べ、修学旅行さながら今日一日の出来事と明日の予定をあーでもない、こーでもないと語り合う。さすがに枕投げこそしなかったが(笑)、いい大人がフロントで買えるデザートひとつに色めきたったり、普段仕事の付き合いでは絶対にしない大人ののろけ話がカミングアウトしたりと(う~ん書きたい!)、楽しい夜はあっというまに過ぎていった。

【中津渓谷 湯ノ森】夕食は和食前を選択。地産の食材を取りそろえた色鮮やかなメニューが印象的だった。

その3につづく...

山岡劇場/林道脇の光

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