富士山は律令国家の昔から、人々に神聖視された名峰である。山頂には浅間大神が鎮座すると言われ、室町期から一般人の登山も盛んに行われてきた。江戸時代には特に、「富士講」と呼ばれる信仰登山が盛んに行われ、富士登山に行けない人のために各地にミニ富士山「富士塚」が造られたほど流行した。
円錐型の独立峰は、世界でも稀に見る美しさで、世界遺産でもあることから昨今では大陸からの観光客がわんさかと訪れている。「芙蓉」「富嶽」「養老山」「行向山」「妙光山」「四方山」。これはすべて富士山の別称で、こんなに多くの名前が与えられるほど人々から敬われ愛されてきた。
そんな富士山は、かつてはクロカン4WDの天国だった。富士山の裾野には無数の名も無き林道があり、そこを踏破するのがオフローダーたちの至上の悦びだったのである。だが30年ほど前に環境省によって富士山域の車両走行禁止令が施行され、富士山は不可侵な「聖域」になってしまったのである。
だが、今でもクロカン4WDで走れる、いやクロカン4WDでしか走れないエリアが富士の北麓にある。それが陸上自衛隊の北富士演習場だ。「演習地だから入れないでしょ」と思うだろう。だがここには「立ち入り日」というのが設定されていて、演習が行われない休日などに一般人の立ち入りができるのだ。
だが、立ち入りは地元民の生業のため、というのが基本原則となっている。生業とは、山菜などの採取だ。ただし、例外として別な目的があって、それが恩賜県有財産管理組合に認められれば、立ち入りが許可される。ちなみにクロカン4WDの走行のみを目的とした立ち入りは許可されないので、自然観察などの目的を持って入りたい。
申請が許可されると200円で入山鑑札が発行される。鑑札は2か月間有効なので、別日に入ることも可能だ。くどいようだが、無謀なオフローダーの走行が地元民とのトラブルになっているようなので、くれぐれも規定の道路以外を走行しないようにしたい。規則を守らないと、立ち入り自体が廃止されることもあり得る。