「カリフォルニアの空は一歩外へ出るだけで幸せだった。空がわくわくさせてくれる」。
そんな青い空とさわやかな日差しの下、休日は犬と散歩し公園でサンドイッチを食べて......
という、それが三宿FUNGOのストーリー。今月創業20周年!
スタッフに訊いたところ、初めて来店する客のほとんどが店の名前を正しく言えないという。「フンゴー」ではありません。「ファンゴー」です。
東京・世田谷は三宿(みしゅく)。かつて三宿が大変きらびやかな大人の遊び場だった時代に、オーナー関さんはサンドイッチレストラン「FUNGO(ファンゴー)」を始めた。1995年12月。今年で創業20年。人間なら成人式――。
この20年で三宿は「大きく変わった」と関さん。20年前は夜の街だったのが、今ではすっかり「朝と昼の街」になった。
当時の三宿はクルマで行く場所だった。芸能人もセレブもみんなクルマで遊びに来たものだが、その後、飲酒運転の厳罰化、駐車禁止の取り締まり強化などにより足が一気に遠のき、それとともにファンゴーの客層も大きく変化した。
かつてはファンゴーのような店には子供連れは入れなかった。今よりはるかに入りづらかった。それが今では子供連れ・ペット連れ、入りたいと思う誰もが気兼ねなく気軽に入れる世の中に。本を読むならファミレスでも出来る、が、それを敢えてお気に入りのカフェでする、という時代の変化……「時間の過ごし方、その価値が変わったのだ」と関さん。「それがすなわち『スタイル』ですから」。
「スタイル」とは何か――。
関さんは高校卒業後、UC BERKELEY、カリフォルニア大学バークレー校に5年半通った。曰く「バークレーは第二の故郷」。
先取的な気風で知られるバークレー(Berkeley)。関さんが住んでいた1990年代初頭、現在日本で親しまれるカフェ文化の原形・源流は既にバークレーにあったという。サードウェーブコーヒーの"走り"はバークレーの"Peet's Coffee & Tea"であったし、またエスプレッソも、文化として盛んになったのはバークレー。そしてバークレーは「ファーム・トゥ・テーブル(Farm to Table)」の聖地でもある。
そんなバークレーでの生活が関さんに「ライフスタイル」という発想を与えた。
ライフスタイルとは何か。帰国後、気がつけば"miss Sandwich"(サンドイッチが恋しい)になっていた関さん。勤めた会社を2年で辞めて独立起業。8ヶ月かけて見つけた今のこの場所は「公園がすごく大事」。
そこで「ライフスタイル」。公園を舞台にすると例えばこんな感じ……。
天気のよい休日、本を片手に散歩に出かけ、公園のそばのカフェに寄って、コーヒーを飲みながら本を読む……というその休日の過ごし方が、ひとつのライフスタイル。そしてその時、その客はどんな客で、店はどんな店で、中にはどんな店員がいて、どんなコーヒーがどんな風に出て来て……というストーリーを描くのが飲食店というビジネスなのだと。その場所その状況に「みんなが求めているものは何か」、それを事細かに脚本に書くこと。ソレがすなわちレストランである。
開業に当たり、関さんが描いたファンゴーのストーリーはあるいはこう……。
明日は湘南へ行こうか伊豆へ行こうか、初めてのデートの計画を立てる金曜の晩。朝はゆっくり出発してブランチの食事でも買ってから行こうか。となると立ち寄るのはファストフード店でもない。世田谷辺りで店の前にサッとクルマを停めて、サンドイッチとラテを買い込み、サッとまた車内へ。ドアを開けると助手席から犬がぴゅんと飛び出して……という、これもまたひとつのライフスタイル。そしてそんな脚本をもとに作り上げたのが、すなわちファンゴーである。
オープン20周年を前に昨秋大がかりなリニューアルをおこなった。より「ふらっ」と入りやすいよう店内をディグレード。敷居を低くした。席数を減らし、代わりに厨房や動線を広げてスタッフの作業効率を改善。「ちょっと冒険だった」が再開後は月次売上げの最高を記録したという。
そんな関社長はけっこうなクルマ好き、中でも四駆が大好き。
バークレー時代の愛車は87年製ワーゲンゴルフ GTI 16バルブ。帰国の際に格安で後輩に譲った後はランドクルーザー プラドを95→120→150と3台乗り継ぎ、今はメルセデスベンツのゲレンデに乗車。配達用はスズキ・エブリイ。
2台目のプラドのダンパーは赤いKONIだった。峠を行くためのダンパーではない。用途はもっぱら街乗り。かつてのプラドも今のゲレンデも、時に仕事で配達・運搬に使っている。曰く「乗ってて何が起こるかわからないから」。
積雪、台風による倒木・冠水などは都内でも十分起き得ること。かつて東京オートサロンが有明で開催されていた頃、ファンゴーも出店。開催前夜、搬入を済ませた後に雪が降りだし、翌朝大渋滞に遭って大遅刻をした。その苦い経験から四駆の有難味を知った関さん。「いろんなことありますから。行かなきゃという時にね」。
ファンゴーはサンドイッチレストラン。レギュラーメニューのハンバーガーが全9品あるのに対し、サンドイッチはコールド10品・ホット10品、全20品と倍以上の品揃え。パンはハンバーガーバンズの他にグラハム、バケット、ライと全4種類を扱う。
今日は看板メニュー「ベーコンチーズバーガー」R 1,500円。
ベーコンは「ベーコンチーズバーガーのためだけ」に作っている自家製。店先で黒いスモーカーが白煙を上げている日あり。極厚が2枚。コリッと硬くプリッと弾力。強めのスモークフレーバー。芳ばしい塩気。そこへグリルドオニオンの甘味。チーズが渋くコク味を利かせるのはベーコンの下でなく"上で"とろけているから。
パティもベーコンに近い食感で挽きは粗いが結着強くプリプリ。USビーフ100%。レギュラー130g、ミニ65g。挽き方の違う2種類の挽肉の粗い方で食感を、細かい方で旨味を表現。それらを甘くしっとりと挟み込むのは東新宿「峰屋」の酒種バンズ。ベーコンのゴツさがとにかく印象的な、ゴツくて力強い、四駆のような"ベーチー"。
目下大人気のアップルパイ専門店「GRANNY SMITH」もファンゴー関さん経営の店。バークレーで出合った"Farm to Table"、「生産者の熱い思いを食卓に届けたい」の精神に則り、パイに使うりんごは長野・青森、国内のりんご農家から直接仕入れている。今では8人の農家を中心に組合のようなものも出来て30農家ほどが参加。店名の由来である青りんご「グラニースミス」の植樹・栽培にも取り組む。それがグラニースミス・プロジェクト。"Farm to Table"をテーマにしたレストラン「bistro BARNYARD ginza」も昨秋オープンした。
「女性がターゲット? 違う。ふつう大口開けてこんなバーガー食べない。クルマと同じです。足回り変えて高くしてというカスタムと同じ。ワクワクするような付加価値を、世界を、雰囲気を、街に合わせ、使い方に合わせてトータルにコーディネートする。それがクルマであり店であり。公園が目の前にあればいいワケじゃない。作り方だと思います」という、それが三宿FUNGO。「フンゴー」ではありません。「ファンゴー」です。
そんなファンゴー、20周年記念ロゴ入り特製マグカップ等々、来月へかけて順次続々登場の予定……どうぞお楽しみに!
< 文と写真:松原好秀 写真:GAO NISHIKAWA >
― shop data ―
所在地: 東京都世田谷区下馬1-40-10
アクセス: 首都高3号渋谷線・三軒茶屋出口より5分
駐車場: 三宿通り沿いにパーキングメーターあり
TEL: 03-3795-1144
URL: http://www.fungo.com/
オープン: 1995年12月9日
* 営業時間 *
日~木: 9:00~23:00
金・土: 9:00~25:00
デリバリー: 11:00~22:00
定休日: 無休(要確認)