皆さんは「スープアップ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。スープアップとは自動車業界の俗語で、エンジン自体の改良を行うことで、性能を向上させることをいいます。今回は、スープアップのテクニックについてお話していきます。
文・山崎友貴
前述の通り、スープアップとはエンジン自体のチューニングによって性能アップを目指すことをいいますが、昨今では吸排気系のチューニングも含めて、トータル的な動力性能改善を示す言葉となっています。
例えば、手軽な所で言えばエアクリーナーの交換やプラグ交換。本格的なチューニングでは、排気量を拡大するボアアップやさらにはエンジン内部のパーツのグレードアップになります。
モータースポーツ参戦を考えるならパワーユニット自体の見直しが必要ですが、汎用エンジンであるジムニーのパワーユニットを日常的に使うというのであれば、そこまでのチューニングは必要ないと思います。
通勤やオフタイムのドライブで、気持ち良く走れる。身近な目標で愛車をイジることで、十分楽しめるのではないでしょうか。
さて、スープアップのメニューは、JB64型ジムニーとJB74型ジムニーシエラで異なってきます。ご存じの通り、ジムニーは660ccの3気筒ターボで、シエラは1500cc4気筒NAエンジンだからです。どちらかと言えば、排気量が小さく、しかもフィーリングの面で不満が多いJB64型に搭載されるR06A型エンジンの方がやることが多いと思います。
ご存じの通り、昨今のエンジンは燃費や排ガス性能を保持するためにほとんどが電子制御式となっています。特に現行型のジムニーシリーズは、アクセルバイワイヤ、いわゆる電子スロットルを採用することで、物理的なメカニズムを限りなく廃しています。これは、ドライバーの意思よりも、メーカーが想定している環境性能を優先させるためです。
筆者は現行型ジムニーが新型車として発表される際に、スズキのテストコースで試作車の試乗をしましたが、これは市販車と違う出力特性を持った車両でした。後に市販車に乗ると、明らかに試作車よりも出力特性が落ちていることに驚いたものです。
特にJB64型の660ccエンジンは、本来であればターボが過給してから高回転域まで気持ちよく回るはずなのですが、CAFÉ規制(自動車メーカーに課せられる排出ガス総量規制)を意識してか、立ち上がっている途中で燃料が絞られてしまうという、ドライバーにはフラストレーションが溜まるものになっていたのです。
電子制御エンジンは、それを司るECUというコンピュータによって味付けを変えることができます。コンピュータを制御するマップには、燃料噴射量や空気供給量、点火時期、トルクやスピードのリミットなど、様々な制御データが書き込まれています。このデータが、エンジンのキャラクターをすべて決めてしまうのです。
ですので、例えばECUのマップデータを変更しない状態で、吸排気系チューニングを行っても、十分な効果が得られないと言えます。なぜなら、現行型ジムニーシリーズのECUは先代モデルよりも遙かに進化しており、仮に吸気系を改善したとしても、トータルの環境性能を維持するために、燃料供給など他のパートで修正する指示を出すからです。
つまり、本当の意味でのスープアップを望むなら、まずECUをどうにかしないとならないというわけです。
では、この厄介なECUを改善するにはどうすればいいのでしょうか? 現行型のジムニーが発売されてから5年が経過しますが、複雑化したECUのおかげで、その解析は困難を極めました。しかし、電子スロットルやインジェクションを使ったジムニーでは、この部分を何とかしなければエンジンの性能改善ができません。
そこでジムニーカスタムの市場で考えられた策が、「サブコン」「スロコン」の装着です。ジムニーはアクセルペダルをはじめ、各部に取り付けられたセンサーからの情報をECUが統合的に制御することで、エンジンの出力特性が決められます。そこで、このセンサーからの情報を疑似信号に置き換えることで、ECUに“錯覚”させて違う判断をさせるというのが、サブコンとスロコンです。
点火時期をずらしたり、空気量を多くしたり、スロットルを実際よりも多く開けているという信号を送ることで、エンジンのポテンシャルを引き出そうというものです。こうした商品は比較的安価で、装着すると改善効果を体感することができます。こうしたサブコン、スロコンを装着した上で、さらに吸排気系の改善をして(詳細はその2で後述)、ジムニーのエンジンフィーリングのアップを図ってきました。
しかし2023年に入ると、状況が変わってきます。ジムニーのECU解析に成功したメーカーが現れたのです。アピオもそのメーカーのひとつです。マップ内で各制御システムがどのように働いているかを分析し、スズキが抑え気味にしていたR06A型エンジンの出力特性を、理想に近づけるデータに変更。このECUを純正のものと交換することで、ノーマル状態とはまるでことなるフィーリングを実現しています。
例えばアピオの「TOTSUGEKI ECU」は、立ち上がりから高回転域まで一気に回り、途中の燃料カットで失速するというフラストレーションがまったくありません。また中速域もさることながら、100km/h以上の高速域でのトルク感がグッと増し、レーンチェンジなどでの加速がラクになっています。それでいて、一部のスロコンのように燃費が極端に悪化することはありません。