本誌にも書いたが、日本人は夜景好きだ。夜景のスポットと書かれれば、実に大勢の人が訪れる。だが、それでも比較的簡単に行けなければ賑わうこともない。きっと林道を使わないと行けなければ、煩わしいイチャイチャカップルもいないだろうと、最近に愛に飢えている僕は考えた。
美しい夜景で最初に思い浮かんだのが、甲府盆地だった。フィールダーの取材で山に入ることが多い僕は、夜半過ぎに笹子トンネルを通過することが多い。通過後に眼下に見える美しい夜景は、何度観ても心を打つ。
また、南アルプスの峰から低山の陰にわずかに見える街の灯も本当に美しい。
きっと甲府盆地に接した山に登って観る夜景は、さぞ美しいに違いない。そんな想いから見つけたのが、櫛形山(くしがたやま)だ。櫛形山はトレッキングコースとして知られる山。ここに向かって伸びる櫛形山林道は、往年の姿こそ残していないが、まだ一部がダートだというのだ(この認識が後で悲劇を生むのだが…)。
というわけで、僕と山岡“巨匠”カメラマンのダブルマウンテンチームは、南アルプス市に向かった。今回の旅のお伴は、通称ヨシムラ号というカラーリングのTS7。こういうカラーリングは見た目はカッコいいが、少しでもマナーの悪いを運転をしようものなら、ヨシムラとかに苦情電話が入るというリスクを背負うことになる。
巨匠などは、これに乗っていてヨシムラのスタッフと間違われ、バイクに乗ったヨシムラオーナーからピースサインとかされたらしい(笑)。
笹子トンネルを抜けた頃から「腹減ったな〜」と巨匠定番のセリフ。もはや水戸黄門の「助さん、懲らしめてやりなさい」並みにスタンダードとなったこのセリフが出たら、とりあえず食事の時間だ。今日は夜景の撮影だから、スタートが遅かった。着いたら、いきなり巨匠の腹具合を考えなければいけないから、編集の仕事もラクではない。
「で、何が食べたいんですか?」「昔、甲府盆地で食べた馬刺が忘れられないんだよね〜」と、まるで昔食べた餃子の味が忘れられない満州帰りの爺さんのようなことを言う。取材地周辺で馬刺を出すを店を検索して、早速行ってみた。
だが経験値から言うと、馬刺は難しい。脂を注入していない冷凍なしの美味い馬刺というのは、なかなかお目にかかれないものだ。地元では有名な食堂という店に行ってみると、人がたくさん並んでいる。これは期待できるのか!? といやが応にも盛り上がる。
メニューを見たら、馬刺があった。メインは違うものを頼み、馬刺をおかずに食べることにした。
だが…。来た馬刺はやはり冷凍物。色も薄く、この段階で期待度が下がる。食べると、不味くはないが、ウマくもない。まあ、よくある飲み屋の馬刺という感じだ。横の巨匠をそっと見ると、やはり同じように感じているらしい。わざと「巨匠、遠慮しないで食べてください。僕の分も食べていいんですよ〜」と言い、反対側を向いてほくそ笑む。
これで当分、「山崎のチョイスが悪いから、馬刺が美味しくなかったんですよ〜」と吹聴するに違いない。僕としては一刻も早く今日のことを忘れて、水に流してもらいたいと思う。ホース、だけに。