この取材に出かける前には、大抵僕と撮影担当の山岡巨匠との間でひと悶着ある。林道をどこにするかでだ。動画と違い、雑誌の誌面はビジュアルのインパクトが大切だ。静止状態の写真だけに、やはり行ってみたくなるような景色をどう切り取れるかに、僕ら作り手もこだわっている。
ただ編集者目線とカメラマン目線が必ずしも同じとは限らない。
今回もいくつかのロケ場所がアイデアとして出たが、結果的に南会津方面と決まった。どういうわけか、山岡巨匠は南会津方面が大好きだ。まあ、いい林道があるのも確かだが、やたらあの地方に行きたがる。実は、巨匠は平家の落人の子孫なのではないかと思っている。
南会津地方は最近でこそ、かなり道路インフラが整備されて行きやすくなったが、かつては陸の孤島だった。源氏との戦いで逃れた平家の残党は、現在の鬼怒川温泉あたりに身を潜めた。ところが源氏の追討士に見つかり、さらに山深い地まで逃げ落ちたと言われている。
ある一族は湯西川温泉、ある一族は檜枝岐に逃げたと言われている。この地域には平家の子孫であることを伺わせる「平野」や「伴(漢字をばらすと“平人”となる)」といった姓の家が多い。
また檜枝岐に多い「星」姓は、藤原金晴が住み着いたのがはじまり、「橘」姓は織田信長に追われた楠助兵衛橘好正の子孫と言われる。つまり、南会津地域はそれほど昔は僻地だったということだ。
巨匠も愛媛・松山近くの出身だから、きっと屋島やら壇ノ浦あたりで敗れた平家の子孫なのではないかと思う。まるで野武士のような風貌だから、きっと先祖は坂東武者をバッタバッタと切り伏せていたのではないかと、勝手に僕は思っている。
都内からジムニーTS4で約4時間。僕らは日本の原風景が広がる南会津へと入った。