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ON THE STREET BURGER
VOL.038
豪州帰りの男~Tequila's Diner [静岡]
豪州帰りの男~Tequila's Diner [静岡]

放浪の旅の末、
オーストラリアで牛肉の捌き方と料理を学んだその男はこう言った......
「もっと真っ当な肉を食え!」

前回、東静岡に復活した「California Diner JACKAL」を訪ねた我々APIOジムニーコンプリートカーTS7「ハンバーガー号」一行は、店主ジャッカル氏より後任の現地連絡員としてある男を紹介され、その男の店へと向かったのであった。


場所は静岡駅前の繁華街、呉服町や両替町に隣接する七間町(しちけんちょう)。オーナーはテキーラ氏。またもニックネーム。この人の半生がスゴイ。以下ダイジェストで――。

放浪の果て

工事にはテキーラ氏はじめ左官時代の仲間が大挙集結。うぐいす色のベロアを張った特注のボックスシートが自慢だ

静岡市出身。中学生の頃「野宿」の趣味を覚え、高校の時にはバックパック背負って国内旅行。卒業と共に海外へ。シンガポールを拠点に1年弱、ベトナム、タイ、ラオスなど近隣諸国歴訪。


シンガポールは空路入国で1ヶ月間、陸路入ると2週間のビザが発行される。そこで2週に1度マレーシアへ出国し、お茶してまた戻りを繰り返してビザを延ばしていたところ、麻薬の運び屋と間違われ、1週間のうちに国外退去せねばならなくなった。追い立てられるように荷物をまとめ、期限ギリギリ最終の船便でインドネシアへ。


ここからインドネシア一周の旅。ところが途中のバリで詐欺被害。スニーカーに忍ばせておいた3万円が全財産に。2ヶ月かけてパプアニューギニアへ入国。豪州ケアンズへ飛ぶ予定だったが、今度はマラリアに倒れてしまう。


ヒッチハイクした車の持ち主である麦藁帽子の男の家に担ぎ込まれ、そのまま床(ゆか)の上で病臥3週間。回復後、ニューギニアを横断してやっとオーストラリア、ケアンズ。3万円は使い果たした。困って野宿していると、通りがかりの兄ちゃんに「泊まれよ」と誘われ、さらに彼らが働く肉牛の解体工場での日雇い仕事を勧められた。

ケアンズの南約100km、"Innisfail (イニスフェイル)"という町の外れのその工場。新米はまず内臓を漂白剤で洗う作業から。ダメな人は全くダメ。工場一帯のニオイを嗅ぐだけで吐く人すらいるという。だがテキーラ氏は"イケる"口だった。この仕事で牛の捌き方を学ぶ。


ひと月半ほどで資金を稼ぎようやく帰国したのはシンガポール退去から半年後のこと。しかし静岡には戻らず、横浜みなとみらいのホテルで配膳の職に就き、接客を基礎から学んだり、ちょっと近所のパン屋を手伝うつもりが、開店1週間で店主が倒れ、不在の1ヶ月余りを結局切り回すことになったりなどを経て、再び渡豪。


ケアンズで四駆を買い、4ヶ月かけて豪州大陸一周。西部の大都市・パースに落着き、初めて「調理」の仕事に就いた。「テキーラ」のあだ名が付いたのはこの時。


働いていたのはフレンチをベースにしたレストランだったが、食べに通ったのはアメリカンダイナーだった。「マッシュポテトとかおばちゃんがよそってくれる。パン! ってやったらピチャッ! ってなって、よけて、汚れて、お構いなし。それがよくて」。


ビザの延長が認められず、1年余り過ごしたパースを出て再びシンガポール。さらにインドのニューデリーまで行ったところで帰国。

左官業

米南部の郷土料理・ダーティーライスにベーコンエッグチーズを乗せた自慢の一品、「ダーティーテキーラズ」

帰国後は静岡で「左官」に。自分で家を建てることに興味を持ち、新東名の建設工事にも携わった。5、6年やって一人親方として身を立てるか悩んだ末、飲食を選択。日本の厨房を初めて経験する。2007年4月に「Thirsty Tequila's」オープン。11年に営業終了。


Tequila's Diner(テキーラダイナー)」は2010年8月オープン。工事には左官時代の仲間が大挙集結した。ウッディでウェスタンな内装。オリーブグリーンのベロアを張ったボックスシートが自慢だ。


炭火で焼いたステーキ3品はじめ、ショートリブ、自家製腸詰、スモークほかメニュー豊富。バーガーメニューは25品+ステーキサンド1品。中から店名を冠した「テキーラバーガー」1,400円を。


中身はベーコンエッグチーズ。エッグは片面、目玉焼き。自家製ベーコン・パティとも非常に「レア感」のあるバーガーである。パティはUSをベースにオージーも入れた計5種類の部位のミックス113g。炭火でグリルして中は真っ赤。レアステーキのようなおいしさ。


自家製BBQソースはリンゴ、デーツ(なつめやし)など加えた独特の甘味と風味。焼かないレアなパティ&ベーコンをフルーティーなBBQソースの甘味で食べる、シズル感のある一品だ。

安東米店

同じ葵区内の名物店・安東米店。店内には産地・生産者・栽培法の明らかな、厳選の銘柄米が何十種類と並ぶ

もう一丁ごはんもの、「ダーティーテキーラズ」1,210円を。アメリカ南部のソウルフード「ダーティーライス」のベーコンエッグチーズ乗せ。スパイシーな黒いソースに混ざるは牛のスネ肉、豚のバラ肉、牛の腸と胃袋=トリッパ、アキレス腱の方の肉など、端肉たちの豪華競演!


そして「米」がおいしい。これだけ味の濃いものがかかっていながら、なお感じる存在感。聞けば同じ葵区内の安東米店のブレンド米という――。


安東米店、略してアンコメ。実はオンザロードGAO隊長の大学時代の大親友の店である。店主は長坂さん(安東は地名・町名)。共に美大に通っていた頃には「米屋なんて」と言っていたのが気づけばすっかり家業を継いで(四代目)、しかも数々の取り組みの面白さから今や地元静岡の名物店にまで伸し上げた。


テキーラダイナーに卸すブレンド米について曰く、

 「特に洋食とか日本的なおいしさとは違う料理については、一番大事なのは食感。粒感があって、かと言ってバッサバサじゃなく、しっかり目。ザラザラなのと、においが臭いのは日本人はアウト。味は二の次と言うか三番目。そうしたねらいで国内産の中から割りとサラッとしてるものを使ってもらっています……」


こんな「コメトーク」が約1時間、つい我々はハンバーガーの任務を忘れた……。

本部からの急報を受け、浜松へ

§§


「道じゃないですね。もはや。二回ぐらいハマって一昼夜待ったですね。次の人来るまで」と豪州での冒険譚を語るテキーラ氏。


ケアンズで買った四駆はホールデンジャッカルーいすず・ビッグホーンの「ちょっとダサイ版」。買った時点で走行30万キロ。車検がないので「テメエで直しながら乗る」。エンジンが3000回転以上になるとオイルが噴出するので足しながら走る感じと。


「70リットルのサブタンクも付いてて、ガソリンは150リットル持って行ける。それでも往復千キロぐらいスタンドのないオフロードでガソリンが無くなると、次の人来るまで下手すりゃ二週間――死んじゃう」「隣町が400キロって『あ、近い』って思いますもんね」


砂漠の真ん中でガソリン……マッドマックスか。いいだろう。そこまでのツワモノ、そういるものでない。

 「『バーガーパトロール』の任にぜひ就いてくれないか」と河野司令。
 「それが僕乗んないんですよ。静岡は割りとちっちゃい街でギュッとしてるんで、自転車あれば十分なんですよね。いつも大体お酒入ってるし……」

ってダメじゃん!

なんてこった……というタイミングで河野司令のレシーバーに受信。

 「……なに? 浜松に志願者? 明朝7時、××海岸の灯台で待ってるって??」

あぁ、またも続く…… (つづく)

< 文と写真:松原好秀 写真:GAO NISHIKAWA >

Tequila's Diner [静岡]

― shop data ―
所在地: 静岡県静岡市葵区七間町8-6 ACTビル1F
アクセス: 東名高速・静岡ICより12分
駐車場: 近隣にコインPあり
TEL: 054-255-7595
URL: http://notequila-nolife.com/
オープン: 2010年8月10日
営業時間: 12:00~14:00LO, 18:00~24:00
定休日: 原則無休(要確認)

七間町の歓楽街の店、テキーラダイナー
メニューブックはじめ、デザインやロゴも作り込んだもの多数
カウンターの冷蔵ケースにはベーコン、ジャーキー、ロースハムその他、自家製の燻製肉が並ぶ
工事にはテキーラ氏はじめ左官時代の仲間が大挙集結。タイル貼りはもちろんテキーラ氏の仕事
おすすめの一品「ビーフィーター(BEEFEATER)」935円。パティとトマトを挟んだだけ。これぞ肉の旨味。「もっと真っ当な肉を食え。肉を食って、そしてもっと働け」とテキーラ氏
安東米店店主・長坂潔曉(きよあき)さん。栽培から歴史・文化、食べ方まで、さまざまな視点からコメを語る、今や静岡では名物の「コメ」ンテーター
テキーラダイナー店主・テキーラ氏。豪ケアンズの肉牛解体工場で肉の捌き方を、パースのレストランで料理を学んだ、豪州帰りの男
七間町にて。両脇を寿司屋と天ぷら屋に挟まれた間にテキーラダイナー
ハンバーガー隊一行は夕日の東名高速を一路浜松へ