最終回拡大版は長野から。
長野のアメリカンダイナーと言えばこの店!
その正体は自社農場を持つ地産地消なレストランだった
※記事中に登場する店の名称、営業内容、場所等は全て事実に基づく正しい情報ですが、登場する人物の行動については全てフィクションです。
ここはAPIOジムニーライフ司令本部。パトロールを終えて戻ると、自席にこんな題名の書類が置かれていた。
「ハンバーガー号最後の冒険」
会議をやっている。司会役の部長が説明を始めた。
「お配りした台本は『ON THE STREET BURGER』の……」
「ちょっと待って下さい」と私。
「『台本』って何ですか? ハンバーガーに関する我々の調査任務に台本なんてあるワケないじゃないですか」
「ありますよ。だって、あなたも私も記事中の登場人物じゃありませんか」
「そんなメタな!」
「続けます……OTSBについては昨年、ハンバーガー号に大胆なリペイントを施しましたが、その後思うように数字が伸びず……」
ん? 何の数字?
「そこでさらなるテコ入れとして、主役のお二人には『任務中の殉職』というかたちで降板いただき……」
エ! 殉職!?
「後任候補には静岡支部長・中津川さん率いるジャンクフードブラザーズ……」
えっ……
「あるいは女子アイドルグループ『BGL40』……」
ナニソレ?
「または、若手お笑い芸人『ラビオリ』のお二人……」
それ、パスタだし。既にアメリカンですらないし。
「あの……」
「はい、質問どうぞ」
「"BGL"って何の略ですか?」
「『BurGer Love(バーガーラブ)』フォーティーだそうです」
こうなったら河野司令と直に話すほかない。私は司令室へと向かった。つまり社長室である。厄介なのはその手前に秘書が控えていることだ。この社長秘書の女性とはどうも折合が悪い。いつも不毛な押し問答に陥る。
「社長はいらっしゃいますか?」
「お約束は?」
「いえ……至急の相談なんですが」
「いま来客中です……待ってもお会いになりませんよ。OTSBの件でしたらもう決まったことですし、それにハンバーガー号も静態保存されることが既に決定しております」
「静態保存って……D51ですか」
「アルゼンチンに活躍の場を移すそうです」
「引退した丸の内線の車両ですか」
「それに、ハンバーガー号はもうあなたとは『一緒に走りたくない』と言ってます」
「ナイト2000ですか。クルマが喋りますか。僕マイケルじゃないし。少しは真面目に聞いて下さい。いつも眼鏡の縁ばっかり尖がらせて……」
「いいからお引き取り下さい!」
まただ。ついに私は隊員章を投げつけて本部を飛び出した。
翌朝、長野にいた。サイコロキャラメルを振って出た目の結果である。
薄ら寒い冬空だった。せっかく長野まで来たんだから善光寺でもお参りするか。「牛に引かれて善光寺参り」と言うが、こっちは「牛の肉を挽いて」毎日食べている身。どうか牛に祟られませんようにと必死にお参りした後、ふと「権堂(ごんどう)」という地下駅を見つけた。
一転、秋の信濃の鉄道旅になった。思いつくまま途中の「須坂(すざか)」で降りた。とりあえずエリンギとしめじを買った。ちょっと歩いてみた。あぁ、須坂駅は12年で廃線になった屋代線の終点だったんだな。廃線になった線路の脇にコスモスが咲いていた……ここにこの角度でハンバーガー号をこう置いて……気がつくとそんなことを考えていた。そのうちにハンバーガー号のことばかり考えるようになった。ジムニーのない旅はさびしい。
つまらないので、すぐまた駅に戻った。すると、いま通り過ぎた横の公衆電話が突如鳴り出した。誰も取らない。し、鳴りやまない……恐る恐る受話器を上げた。
「隊長のGAOでーす! 今どこ? 権堂で待ってるから。あ、あと『TSURUYA』のりんごバター買って来て」
どうして居場所がわかったのだ。ワケの解らぬまま権堂へまた引き返した私は、しかしついに待望のハンバーガー号との再会を果たしたのだった。
「バーガーパトロールに打ってつけの店がある」と隊長に言われて来たのがここ「Googie's Cafe(グーギーズカフェ)」である。
行って驚いた――ここはカリフォルニアだ。一軒丸ごとみごとなダイナーである。焼肉屋の跡を大改造したというその店舗は「グーギー建築」という様式を取り入れている。斜めに張り出したガラス窓、銀ピカのフレーム、石材の使用など、古き良きカリフォルニアの趣きが随所に窺える。
店内も50's。そんな完全無欠の"ロケンロー"な店かと思いきや、それだけで終わらないのがこの店。「グーギーズファーム」という200坪の自社農場を千曲(ちくま)市に持っている。できた野菜は毎朝店員が収穫しに行く。その地場の野菜を使った料理をグーギーズは提供しているのだ。いわゆる6次産業である。「地元の野菜が90%超えてると思う」と店長の迫(はさま)さん。
具体的にどんな風に使っているか見てみると……まずメニューブックの分厚さに驚かされる。優に100品超。一番出るのはダントツでハンバーガー計11品。
信州牛100%パティは150g、オリジナルパティ120gは豪州牛の赤身に信州牛の脂。ともにつなぎ無し。グリラーで焼いて十字のコゲ目。バンズは福島県のパン屋に依頼しているが、「ゆめかおり」という地粉を混ぜて製造。やや大きめの110g。
今日はオリジナルパティの「ベーコンチーズバーガー」1,130円で。ドリンクはイチ押しの「Googie's チェリーコーク」480円。
ベーコンは自家製。敢えてスパイスに漬け込まず、クセのない素直な味に。りんごチップでスモークしている。チーズはカリカリに焼いて縁が少し痛いくらい。卵は北軽井沢の平飼い鶏が産む有精卵。黄身がドロリと濃厚。緑は地元産のフリルアイス。葉肉が薄くシャキ感が強い。オニオンは入らず。卵を使わずに作るタルタルソースの酸味と甘味が上下に。
ここまで材料を吟味して作った一品。いわゆるジャンクとは違うやさしい味わいで、食後ヘンにもたれないのが良質の証だ。
そしてピザがおいしい。600℃の高温が出せるピザ窯があり、注文のたびに生地を伸ばして焼いている。おすすめは「リンゴルゴン」。チーズ5種に長野産のりんご(この日は秋映)を乗せ、メープルシロップと信州産のはちみつで仕上げた一品で、混ざり合って生まれるレーズンのような深い甘味が超絶美味! これは傑作! 他にも信州豚のスペアリブや目下ブレイク中の長野産米「風さやか」、食後のデザートには信州産生乳100%のフローズンヨーグルトなどなど、地元食材が目白押しだ。
当初はアメリカ色が強過ぎて「ピンクのあやしいところ」と敬遠されたが、最近いろんな人が来てくれるようになって「楽しい」と迫店長。曰く、アメリカンと言うと「ジャンク」なイメージがあるが、グーギーズは「楽しんでいただける料理」を提供しているのだと。
一度や二度ではとても食べ尽くせない千曲と長野の食の宝庫。それがこんなアメリカンなスタイルであるところがまた面白い。
そんなグーギーズカフェの生みの親は誰か。どうしてココに出来たのか。隣のアパレルショップは何か……といった疑問を引き続き後編で解き明かしてゆきたい。今回は最終回特別編……そしてそう、忘れてはいけない……ハンバーガー号の運命やいかに?
< 後編へつづく >
所在地: 長野県長野市篠ノ井小森字福王寺572-2
アクセス: 上信越自動車道・長野ICより県道35号線経由10分
駐車場: 50台駐車可
TEL: 026-293-3005
URL: http://www.googies-cafe.jp/
オープン: 2008年5月9日
営業時間: 11:00~22:00(LO21:00)
定休日: 水曜日(要確認)