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ナローシエラで林道探訪
VOL.007
ナローシエラで林道探訪Vol.7
ナローシエラで林道探訪Vol.7


雑誌『ジムニー・スーパースージー』に連載中の『林道パラダイス』との連動企画。
2023年7月の初旬、数十年来の友人に秋田の実家に泊りに来ないかと誘われたのを機に秋田県の林道をナローシエラで旅してきた。
旅のごく一部ではあるが短い動画も作ったので併せてご覧いただければと思う。

Photo & Text : 赤ぞう

大館市エリア

大館市で訪ねた林道は北東部にある小坂町に接する山岳地帯だ。支根刈沢沿いに続く林道に入ってすぐにアナグマが待ちかまえていた。アナグマはこちらをじっと見つめてから、まるでナローシエラを先導するかのように林道を100mほど走った後に森の中へと逃げ込んだ。アナグマの可愛らしさに癒されてほっこりした心持ちで林道を走っていると、左カーブを曲がった先に居た黒い獣に驚き慌ててブレーキを踏んだ。ツキノワグマだ。一瞬、目は合ったが向こうも驚いたのか、すぐに森の中へ逃げ去った。野生のクマに出くわしたのは今回で2度目。2回とも車内に居るときだが、もしも車外に出ていたらと思うとゾッとする。クマの目撃情報が多いことは知っていたが実際に遭遇するとは驚いた。これからはナローシエラから離れず行動するようにしなくては。しばらく走ると右方向に分岐する道を見つけた。地形図には載ってない脇道だ。その道は支根刈沢を渡ると山を登り始めた。林道沿いには養蜂の木箱置き場が3か所ぐらいあって電気柵が設置されていたので、ハチミツを狙うクマ避けなのかもしれない。GPSで位置を確認しながら森の中に続く林道を進んで行くと、途中から地形図上は点線の道となり、尾根を越えて松木沢へ下って行き小坂町へ出てしまった。

大館市に戻るべく小坂北ICから秋田自動車道に乗って山岳地帯をワープ。大館北ICで降りて向かうのは縫戸山の南麓を西へ進み尾根を越えて山瀬ダムへ抜けられるかもしれない林道だ。国道7号線を北上していると長走風穴の看板が目に留まった。この日の気温は30℃にもかかわらず、風穴内3.3℃という電光看板に惹かれて立ち寄ることにする。風穴から吹き出してくる冷気を石造りの小屋に取り入れ、リンゴや種などを保管する冷蔵庫として昔は重宝されたらしい。天然のクーラーで涼んだ後は目指す林道へ向かった。入口から狭い砂利道で路肩がやや崩れた箇所を通り、倒木の下をくぐり抜け、両脇から草が繁茂した道を掻き分けて進んだ先は残念なことに鉄ゲートで閉ざされていた。仕方がない。昼飯にしよう。大館市街のスーパーで調達しておいた比内地鶏の握り飯を頬張りながら次はどうするかとGPSで現在位置を確認。すると山瀬ダムへの道は進行方向にある鉄ゲートの先に続く道ではなく、ゲートの手前を右へ曲がる道だったことが判明した。一見すると道らしきものはないのだが、地形図に照らしてよくよく見ると草に覆われた涸れ沢のような道筋があった。とてもとても四輪車では行けそうにない。やっぱり引き返すしかないようだ。

林道経由は諦めて山瀬ダム方面へは県道68号を通って向かうことにした。目的は雨池牧場へ通じる板沢林道だ。標高350mほどの牧場の先、標高600m近くまで地形図上は道が描かれている。牧場への分岐点からは砂利道。走りやすいフラットダートを登って行くと牧場の中を通る道となった。放牧された黒っぽい牛が草を食んでいたが人も車両も見掛けない。広々していて気持ちいい場所だ。その先の大規模な伐採跡地を抜けて標高500mを越えた辺りからは草木の茂り具合が酷くなってくる。掻き分けるように進んで行くと白い泡状のものが木の枝にぶら下がっていた。モリアオガエルの卵だ。卵の下は路面の凹みにできた水溜まり。晴れが続けば干上がってしまうだろうに。無事にカエルまで育つのだろうか?と心配しているうちに終点に到達。地形図どおりに道は終わっていた。戻る途中では地形図にない下り方向の道へ入ってみる。それほど草が茂ってないので下山できるかもしれないと淡い期待を抱いて進んだが、標高差にして100mほど下ったところで登り坂となり車道は行き止まりとなった。ちょっと残念だが、十二分に楽しませてもらえたので良しとしよう。

八峰町エリア

八峰町でのお目当ては白神山地。世界自然遺産登録区域の二ツ森までクルマでも楽にアプローチできる青秋林道へ向かった。ところが林道の入口に着くと工事用のバリケートがあり通行止。2022年8月の大雨で深刻な被害が発生したらしい。残念。気を取り直してすぐ近くの林道を走ろうとしたが中の又林道も三の又林道も通行止だった。引き返して真瀬川沿いの砂利道に手当たり次第に入ってみる。そのうちの1本では林道両脇から生い茂るイタドリのトンネルをくぐって進むような状況だった。そこで初めて体験したのが自動ブレーキ。警告音とともに自動ブレーキが作動して強制的に停車。フロントガラスを覆うほどに茂っていた葉を障害物として検知したようだ。クルマや人間を相手に自動ブレーキを体験したくはないので、イタドリ相手に体験できて良かったのかもしれない。ひとしきり周辺の林道を巡ってから道の駅八森で昼飯にした。オーダーしたのはフグ唐揚げ丼。ふっくらした白身でとても美味しかった。

昼飯後に向かったのは泊川に沿って続く泊沢林道。通行止だった青秋林道のやや南に位置する林道だ。いかにも大型車両が通っている雰囲気の道で、あちらこちらに鉄板が敷いてあり路面が補強されている。砂防ダムの工事でもしているのかなと思いつつ登って行った先は伐採現場。雨の日曜日ということもあり作業は止まっていた。幸い重機は端へ寄せてあったので奥へと進ませてもらう。現場から先の林道はしばらく誰も走ってないようで草が茂って路面はやや荒れ気味。時折りブレーキLSDが介入するのを感じながら登って行くと、標高450m地点で左斜面から崩れ出た土砂に路面が覆われていた。その先へも林道は続いていたが無理はせずに引き返すことにしよう。
標高100m付近まで下ってから左岸の山へと登って行ける馬立場横沢林道に入ってみた。そこは枝道が多く、霧に包まれた幻想的な山の中を彷徨うかのように楽しませてもらった。標高600mを超えるエリアへと通じているはずの林道は標高470m地点で路肩の半分ほどが決壊。往きは何とか通れるかもしれないが、ナローシエラが走った振動で路肩が崩れたら戻って来られなくなる。そこまでのリスクは冒すべきではなく前進は断念することにした。

大仙市エリア

大仙市で巡ってきた林道は協和IC近くにある標高135mほどの低山地帯に続く道だ。地形図にすら山の名が載ってない山間部に国道341号線側から入った。伐採作業で日々使われていそうなフラットで走りやすい砂利道を登って行くと左方向へ逸れる脇道を発見して左折。杉林の中に続く少し滑りやすい黒土の道を進むと、途中から湿り気の多い赤土となり路面は荒れてきた。ねっとりした泥にタイヤが空転し始める。掘り下げて完全にスタックする前に降り立ち状況を確認。タイヤが沈み込むほど軟弱な土だがデフまでは接地してないので、前後に揉み出してみることにした。するとブレーキLSDが作動してくれるせいか何とか動く。タイヤを空転させながらも前へ進むことができたが、その先で行き止まりとなった。Uターンしようとしたが泥濘でタイヤは空転しスタックしそうな状況だ。同じ轍をバックで戻る方がいいと判断。後退の途中でも何度か泥に埋もれたが、前後に動かすとグリップが回復してくれたので、電動ウインチを使うことなく泥濘地帯から抜け出すことができた。

船越海岸

男鹿市で立ち寄った船越海岸は車両で砂浜を走ることができる日本では数少ない海岸だ。船越海水浴場から砂浜に乗り入れてみたところ、秋田ナンバーのクルマが当たり前のように砂浜を走っていた。石川県の千里浜なぎさドライブウェイと同じように固く締まった砂だからだろう。タイヤが砂に沈み込む感じがしない。男鹿半島の方向へ走って行くと、途中には小さな川の河口があり川渡りも楽しむことができる。でも油断は禁物。電動ウインチのアンカーになりそうな立木は1本もないのでスタックしたら助けを要請することになりかねない。
今回の旅でツキノワグマに出会ってからは、先の見えないカーブのたびにクマに出くわすのではないかと身構えながら走ったが、その後はクマに遭遇することなく無事に過ごすことができた。念のためにクマ避けの鈴は身につけていたが、スタックからの脱出作業中などに車外で鉢合わせすることもあるかもしれない。今後もクマに襲われないことを祈るばかりだ。

ライタープロフィール

赤ぞう
1968年神奈川県生まれ。成城大学卒。日本ジムニークラブ神奈川支部所属。
ブログがきっかけとなり2011年からジムニー・スーパースージーに林道ツーリング記の掲載が始まる。著書は「ジムニー林道アドベンチャー」(SSC出版)。千葉県房総半島の林道沿いの家に暮らしながら、日本中の林道を旅することを楽しみとしている。愛車はナローシエラ。

YouTube赤ぞうチャンネル
https://www.youtube.com/@akazosan

雨池牧場の先にあった広大な伐採跡地。見晴らしが良く爽やかな風が吹いていた。心地いい。
二ッ森へ通じる青秋林道が通行止だったので、真瀬川沿いの林道に手当たり次第入って探索してきた。
馬立場横沢林道の枝道。霧に包まれた幻想的な山の中を心行くまで楽しませてもらった。
湿り気の多い赤土でタイヤを空転させながらも前進するナローシエラ。
泥道から抜け出した直後のジオランダーM/T G003。今回のようなねっとり系の泥濘路でも何とかグリップしてくれた。