雑誌『ジムニー・スーパースージー』に連載中の『林道パラダイス』との連動企画。
2023年11月の下旬、福島県南部に位置するいわき市と古殿町にまたがる山塊をナローシエラで旅してきた。
旅の一部を動画にしたので併せてご覧いただければと思う。
Photo & Text : 赤ぞう
1968年神奈川県生まれ。成城大学卒。日本ジムニークラブ神奈川支部所属。ブログがきっかけとなり2011年からジムニー・スーパースージーに林道ツーリング記の掲載が始まる。著書は「ジムニー林道アドベンチャー」(SSC出版)。千葉県房総半島の林道沿いの家に暮らしながら、日本中の林道を旅することを楽しみとしている。愛車はナローシエラ。
<YouTube赤ぞうチャンネル>
いわき市は自宅のある房総半島から200kmと遠くはないので高速道路に乗らずに向かったところ、朝4時に出発したのに現地に着いた時刻は10時。大した渋滞もなく立ち寄ったのは燃料補給と食料調達ぐらいだが思いの外に時間が掛かってしまった。
目指す林道大曲線には県道134号からアプローチする。薄暗い杉林の中を登って行くと斜面は大きく崩落。土砂と倒木で路面が覆い尽くされていて通れない。県道に戻り南にある林道吉沼川部線から山に入り直して林道佐倉大藪線を経由して大曲線の奥へ伸びる林道へ向かう。ところが走れたのは集落までで、その先に続いているはずの道は藪だらけ。
残念ながら使われていないようだ。吉沼川部線まで戻ってから林道川部小川線にも入ってみたが、こちらも途中からは草木が茂っていて断念せざるを得ない。再び吉沼川部線に戻って落ち葉に覆われた舗装林道を進む。東へ分岐する砂利道を登り詰めるとドコモの電波塔に突き当たって行き止まり。昼飯にと買っておいた海鮮焼きソバを食べながら地図を見て次なる林道を確認する。食後は本線を北上して林道松葉線へと走り継いだがこちらも舗装林道であった。
旧荷路夫村では県道71号から始まる林道石寄線を探索。
走りやすい砂利道を登って行くと真っ赤に染まった紅葉が出迎えてくれた。分岐を右折して林道石寄支線に入ってみる。一軒家を過ぎると轍痕は激減した。それでも草刈りはされているようで少し荒れ気味の道を登って行く。尾根を過ぎて下り坂へ転じると洗堀による溝があったり橙色に染まった紅葉があったりと楽しませてもらう。
小さな沢を渡ると細い道に突き当たった。右も左もナローシエラでの進入をためらうほどに草木が繁茂。先の様子を歩いて見に行ったがどちらも藪が深まるばかりで引き返すしかない。石寄線に戻って西へ進むと、けっこう大きな石が庭石のように立ち並んでいた。人が手を加えたものでなく自然が造り出した偶然の産物であろう。林道名になっている「石寄」の由来はこの石のことなのだろうか。
続いて向かったのは古殿町にある三株山。
県道71号から入った道は舗装路だったので枝分かれする道をチェックしながら進んだがチェーンやゲートがあって走らせてはもらえない。三株山南登山口に行ってみると牧草地内に続くコンクリート舗装の道が山頂まで通じてそうだったものの、「環境保護のため徒歩で登山願います」との看板が立っていた。ナローシエラでの登頂は諦めて宿泊地である三株高原キャンプ場へ向かうことにする。
舗装が途切れて砂利道に変わると雨がパラパラ降り始めた。雨の予報はなかったはずなのにキャンプ場に着いても降り止まない。ところがタープを張り終えた頃には日が差してきて夕焼けまで見られたのは幸運と言ってもいいだろう。キャンプ場には他に誰もおらず日が落ちると真っ暗闇。月明かりとランタンの灯りだけで夕食を作る。作ると言ってもカット野菜、サイコロステーキ、うどん、インスタント味噌汁を放り込んで煮ただけだが一人きりなのでこれで十分。ビールと焼酎を飲んでほろ酔い状態で寝入った。
翌朝は寒さで目覚める。外気温は0℃。ベーコンを茹でて、その茹で汁をカップラーメンに注ぐ。熱いラーメンを食べると体が暖まってきた。まずは前日に登れなかった三株山への登山だ。キャンプ場近くの北登山口から歩き始めると30分ほどで登頂。標高841mの山頂には展望台があり、視界を遮るものがない360度の眺めで太平洋も臨めた。空気が澄んでいれば富士山も見られるそうだ。
昭和36年まで森林鉄道の軌道敷だったという四時川林道に上流側の国道289号から入ってみた。舗装されたばかりの黒々としたアスファルト路が続いたが周りの風景は森林鉄道だった昔と大きく変わらないはず。四時川を眺めながら2kmほど進むと、四時川資材運搬路との分岐から先は砂利道となった。やはり林道は砂利道の方がしっくりくる。
その後も所々で舗装されていたが、まだ半分ぐらいは砂利道が残されている感じだ。渓流沿いの森はほとんどが葉を落とした冬木立。僅かに残る紅葉した木々に晩秋の陽光が差し込み川面に映えて美しかった。
続いては南へ抜けられるはずの林道藤の木沢線。
少し荒れ気味の坂を登って峠を越えると工事中で路面に大きな段差があって通れない。引き返し始めてすぐの陽だまりでランチ休憩。朝からの経路には店が一軒もなかったので前日に買っておいたパンだけだが林道で食べれば美味しく感じるものだ。戻りながら脇道に入ってみたものの荒れていて簡単には登らせてもらえない。無理は禁物と途中で切り上げることにした。
ラストに訪ねたのは国道289号まで通じている横川仏具林道。「仏具山山頂」の案内板に導かれて左折する。洗堀でできた溝が多くて倒木も転がっていた。タイヤ痕が見当たらないので車両の往来は少ないようだ。3kmほどの距離に50分を要して標高670mの仏具山に到達。達成感もあってか山頂から臨む太平洋の眺めは格別であった。さあ帰ろうと国道のある西側へ下り始めると倒木。車両の通った形跡はない。どういうことなのか?嫌な予感は的中してしまい標高450m辺りまで下ったところで路面が決壊していた。一見すると通れそうだが、よくよく見ればアスファルトの下に路盤がない。バイクなら通れるかもしれないが四輪車は無理だろう。
ここまでの道程を引き返すしかなさそうだ。障害物はどかしてあるので往きほどの時間は掛からないはずだが11月下旬の日暮れは早い。できれば陽のあるうちに下山したいところだ。先を急ぎつつも慎重に走っていたつもりだったが、どこかに焦りがあったのか倒木でスタック。下回りを覗き込むとデフが倒木に乗り上げていた。浮き上がった後輪の下に石と倒木を突っ込んでトラクションを掛けてみたが空転するばかり。ちょっと時間は掛かるが電動ウインチを使うしかない。左前方10mほど先の立木をアンカーにしてウインチワイヤーをセッティングした。ワイヤーを巻き上げながら駆動させると何とか脱出。
その後はより慎重な運転で目兼林道を走り抜け、暗くなる前には下山することができた。最後は少し慌ただしくなってしまったが、思い返せばこんなアクシデントも楽しいものである。