ジムニー車中泊ひとり旅 Vol.19 「伊豆・細野高原編」
Traveling alone with jimny.
木々が芽吹き始め、緑色に染まった山々
つややかな緑色の草木に囲まれたくて、東伊豆にある高原へと向かった
Photo & Text : 山岡和正
空の様子を気にしながら東名高速道路を南下していた。
アウトドア・アクティビティを楽しむには最高の季節となったのだが、このところの天候不順で公私共にリスケジュールが続き、気持ちも今一つスッキリしない。何度か訪れたことのある広大な緑の細野高原で過ごせばそんな気分もリセットされるかもしれないと思い出発したのだが、天気だけが気がかりだった。
伊豆市に入り、先ずは「ジムニーひとり旅」に欠かせない林道となるのだが、残念なことに伊豆半島にあるメジャーな林道はほとんどが閉鎖されている。止まぬ不法投棄や崖崩れなど理由はいくつもありどうしようもないが、林道天国だった以前の伊豆半島を思い浮かべると只々懐かしい。それでも冒険心を擽る林道が少しは残り点在しているので、今回は伊豆半島中央部から東伊豆あたりにある残された未開の林道群に入ってみようと思う。
未舗装路に入る前の小手調べとばかりに「浄蓮の滝」の先にある「天城の太郎杉」に寄ってみることにした。この天城のシンボルとなっている巨木へは入り口にある滑沢渓谷から2kmほどのフラットダートが続いているのだ。四駆へシフトするほどハードな道ではないが、ワサビ田の見え隠れする渓流沿いの杉林は涼しげで気持ちよかった。林道脇へジムニーを止めて見上げると、数年ぶりに見た「太郎杉」は変わることなく天城の森の主と言わんばかりに胸を張り鎮座していた。
さらに南下して河津町に入る。ここは初春に河津桜が咲き誇る桜の名所だ。伊豆では走れる林道が少ないのは分かっていたので、出発前に走ったことのない林道に重点をおいて綿密に調べ、いくつかピックアップしていた。その中でも群を抜いて面白そうな「名もなき林道」が町の西側にあり、それに取り付いた。
国道から逸れてすぐにアスファルトの崩壊した道が続いた。かろうじて残るアスファルトのガレ場を左右に大きく揺さぶれながら登っていく。尾根近くまで登ると路面状況も落ち着いたが、山の北斜面に入ったところであたりが急に暗くなると景色は一変ジャングルの様相に変わった。林道全体を苔とシダが覆い、新緑の高原とは別次元の暗い緑色の世界である。湿度の高い重い空気が流れて、もうこの名無し林道名を「熱帯雨林道」と呼びたいくらいだ。しばらくジャングルを進むと峠を越えて明るい尾根道へと出た。
尾根道の先は下りとなり、落ち葉で覆われた道はふかふかでトラクションも心もとない。倒木もちらほら現れ始めたので、どこまで行けるのか気にはなったものの安全を考慮してここで引き返すことにした。
河津町に戻り野営用の食材を仕入れてから、今回の主役である細野高原へと急いだ。
集落の狭い取り付け道を上っていくと急に視界が開け、どこまでも広がる若草色の高原が現れた。稜線に並びそびえる風車が堂々とゆっくり回っているのが見える。遊歩道を上り丘の上まで行き見下ろせば、高原の向こうに海も見えるはずだ。
手早く野営の準備をして、軽い食事を済ませる。食後の珈琲を飲みながらウトウトしていると、草の香りがする風に呼び起こされた。
ふと見上げれば辺りをオレンジ色に染めて、巨大な夕陽が風車の向こうで輝いていた。
「名無し林道」中盤はまるで熱帯雨林の森のようだった。木々は苔に覆われて路肩にはシダが群生する緑色の不思議な、かつ魅力的な空間だった。場所により路面状況や生えている植物の種類が異なって短時間で森の変化が楽しめる林道だが、今回引き返した場所の先に進むなら十分な準備と装備が必要だろう。
山岡 和正
雑誌、WEB、カタログなど中心に、対象物を選ばず多方面で活躍するフォトグラファー。
特に車やアウトドア、旅などには定評がある。