ジムニー車中泊ひとり旅 VOL.32 「四国紀行 後編:四国カルスト」
Traveling alone with jimny.
四万十川の源流点を抜けて
大空へ続く道を行く
四万十川をあとにして、さらに高度を上げて行く先と
四国連山が一望できるカルスト台地がある。
白い岩肌の石灰岩と草原の広がる天空の道へ。
Photo & Text / 山岡和正
雑誌、WEB、カタログなど中心に、対象物を選ばず多方面で活躍するフォトグラファー。
特に車やアウトドア、旅などには定評がある。
ウェブサイト:http://kaz-yamaoka.com/
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朝JB74の車内で目を覚ますと、かすかに川の流れる音が耳に届く。河原のキャンプ場も良いものだなと微睡みながらしばらくはそのまま動かずにいた。テーブル替わりにしているペリカンのハードケースの上の腕時計を見ると7時を回っている。
ごそごそと寝袋から這い出して珈琲を淹れながらクラッカーを頬張った。昨夜は焚火をしなかったので撤収には大して時間もかからず、苦めの珈琲を喉に流し込んでから早々に出発した。
最終目的地は、東側の天狗高原から西端にある鶴姫平の先へと続く四国カルスト公園横断線で、姫鶴平キャンプ場での車中泊を予定している。 まずはその動線にある林道へと入ってみようと思ったのだが、現在地を確認すると四万十川と並び、仁淀ブルーと称される清流「仁淀川」がここから近いことに気づき、せっかくなので少し回り道をして久喜の沈下橋まで行ってみることにした。
仁淀川全体からするとこの辺りはすでに中流域のエリアになり、上流域や途中に流れ込んでくる中津川に比べればけして透明度が高いとは言えないが、特筆すべきはこの橋のまわりにある不可思議な奇岩群である。渡るのにも躊躇してしまうくらいの狭くて脆そうなコンクリートの橋をごつごつとした岩盤が取り囲んでいる。その中を走っているとちょっとしたアトラクションを体験しているかのような楽しさがある。
少し戻って、目的地へ向かう動線上にある林道に取りついた。
森が深くなると、昨日走った林道と同じようにここにも霧雨が漂う。車外に出ても濡れるほどではないのだが、山全体がしっとりとしていて湿度がかなり高い。時折開けた場所もあり緑も美しいのだが、やはり展望や魅力的なスポットに欠け、淡々と走るだけであった。
国道に出たところで天気は回復して、少し走ると天狗高原へのルートが大きな看板に示されていた。国道を逸れて県道に入ると、急坂のワインディングが続いていく。しばらく森の中を走っていると眼下に少しずつ周囲の山々が見えてきた。かなりの高さまで登ってきたようだ。景色が良くなり始めた矢先、少しずつ霧が迫ってきた。 ついにはホワイトアウト状態に突入してしまい、天狗高原に到着するころには視界はゼロに近かった。対向車もよく見えず危険なので、気を付けながらゆっくりと進んだ。
尾根伝いの道を行き五段高原を過ぎると、本来はこの場所から四国カルストの雄大な景色に出会えるはずだが、様子は相変わらず白い世界のままだ。一本道なので迷うことはないのだが、前方が全く見えないというのは恐怖でしかない。
そうしているうちにいつの間にか姫鶴平のキャンプ場へ到着していた。
この時点ではまだ四国カルスト全貌を見ていない。どうしようもないので、とりあえずキャンプ場のサイトで珈琲タイムを取りながら霧が晴れるのを待つことにした。
それから1時間ほどたっただろうか。微かに青空が見え、霧が大きく流れ始めた。舞台の幕が引かれるかのように無数の石灰岩を湛えた高原がゆっくりと姿を現し始めた。落ちていく夕陽に照らされて、少しだけオレンジ色のフィルターがかかり美しい。
展望台に登り見下ろせば、雄大なカルスト台地の向こうにたくさんの山々が連なり、その手前にぽつんと置かれたJB74はまるでジオラマの中の模型のようにとても小さく見えた。
キャンプサイトの周囲は真っ白で何も見えない。霧はゆっくりと移動しているようなので、珈琲を飲みながら様子を見ることにした。周囲には別のキャンパーや観光客もいるはずだが、それとは切り離された別の世界にいるようだった。
谷底の仁淀川では川の流れで浸食し、造形された岩のアートが見て取れたが、日本一高い場所にあるここのカルスト台地でも、カレンフェルトやドリーネと呼ばれる白い石灰岩で作られた様々な形状の岩々を見ることができる。