雑誌『ジムニー・スーパースージー』に連載中の『林道パラダイス』との連動企画。
2023年9月から10月にかけてナローシエラで巡ってきた北海道の林道記の第4弾を綴らせていただく。
旅の一部を動画にしたので併せてご覧いただければと思う。
Photo & Text : 赤ぞう
1968年神奈川県生まれ。成城大学卒。日本ジムニークラブ神奈川支部所属。ブログがきっかけとなり2011年からジムニー・スーパースージーに林道ツーリング記の掲載が始まる。著書は「ジムニー林道アドベンチャー」(SSC出版)。千葉県房総半島の林道沿いの家に暮らしながら、日本中の林道を旅することを楽しみとしている。愛車はナローシエラ。
<YouTube赤ぞうチャンネル>
国道241号で阿寒湖へ向かう途中で訪ねたのはハンラコロシュ川沿いに続く砂利道。途中でエゾシカに出会いながら奥へと進む。送電線に並行していたので電力会社の管理用の道も兼ねているのかもしれない。下草が刈られていて走りやすいと思っていたら乗り越えられない太さの倒木に行く手を塞がれてしまった。道はまだ奥へと続いているのでなんとか突破したいところだ。ワイヤーを掛けてじわっと引いてみたが倒木は動かない。めげることなく衝撃を与えるようにガツンと繰り返し引くと倒木が少しずつ動き出し、9回目の引きで幹が割れてくれた。割れた幹を引きずって走行ラインを確保する。ただ幅はギリギリでタイヤのサイドを倒木に擦り付けながらクリアした。なかなかの達成感を味わえたのも束の間、数百m進んだところで路面は決壊。沢を渡ることができず引き返すことになった。当たり前だが帰りも倒木の横を通ることになる。反対向きになり倒木が見辛いこともあって出っ張った横枝に接触。一旦バックして横枝を切ってからアプローチし直したが、往きと同じく倒木にタイヤを擦りながら通ることとなった。
地図で二ぺソツ川沿いに続く道が標高1150mまで登って行けそうなことを発見。何かあるに違いないと訪ねてみた。「山の交流館とむら」の手前から二ぺソツ林道に入って牧草地を通り過ぎた辺りでエゾシカに遭遇。道筋が二ぺソツ川沿いになると河原にもエゾシカが現れた。奥に進むにつれて紅葉は色付き山深さも増してくる。まだ見ぬ絶景への期待が高まってきたところで、「この先林道被災のため通行止」の表示とともに虎ロープが張られていた。入口から8km地点。標高は490mと目的地のかなり手前だが残念無念。肩を落として帰る途中で急に激震が走った。ヒグマだ!エンジン音に気付いたヒグマはすぐさま走り始めてカーブの先の熊笹の中へ逃げ込んだ。その逃げ足はとてつもなく速く、こっちへ向かって来ていたらと思うとゾッとする。ほんの一瞬の出来事だったが鼓動は高まった。下山後に富村牛(とむらうし)神社を参拝。旅の安全を願わずにはいられなかった。
道道718号は途中から砂利道となりトムラウシ温泉東大雪荘まで通じている。温泉の先はユートムラウシ林道となりトムラウシの山塊へ分け入って行けるのだ。まずは北へ分岐するユートムラウシ第2支線林道に入ってみる。この道は入口からの標高差200mを一気に駆け上がるとトムラウシ山の登山口で終点。山頂に最も近い登山口だが往復には10時間以上かかるらしい。当然ながら自分には登る気力も体力もない。一息つくとユートムラウシ林道に戻った。神威橋を渡ると山深さは増し、その先エゾシカに出合うこと5回。うち3回は興味深そうにこちらを見つめてきた。標高960m付近まで登ると森林限界ということでもないだろうが木々がまばらになり日差しを感じられるようになる。熊笹などに覆われた平坦な地形だ。その先の長い直線を登ると右カーブがあり、雨量観測所を通り過ぎてすぐに「キケン注意」のテープが張ってあった。そこからは熊笹が刈られていない。地図上ではまだ道が続いているのにここで終わりとは残念だ。でもこの日は東大雪荘を予約してある。温泉に入って冷えたビールを飲もう。気持ちを切り替えてUターン。下山途中に望岳台へ立ち寄ってトムラウシ山を眺めた。雲に覆われて山頂は見えなかったが、青空に白い雲というのも美しいものだ。
トムラウシ温泉で癒された翌日はロングダートが楽しめるペンケニコロベツ林道の踏破を目指す。まずは道道718号の砂利道を南下し、奥十勝峠を目指すべくトノカリ連絡林道へ入った。標高700m前後に広がる神秘的な雰囲気の森ではエゾシカの親子に遭遇。倒木をどかしながら西へ進むと道の両脇から熊笹が茂り、路面にトドマツの幼木が生え出した。もう廃道なのだろうか。視界が開けたところで十勝岳連峰の眺望を楽しんでから引き返すことにした。道道718号に戻って南下しシートカチ支線林道で向かおうとしたが林道被災で通行止。少し遠回りにはなるが南下して近別林道経由でペンケニコロベツ林道の途中から入ることにした。トラックが往来していそうな轍のある砂利道を近別川沿いに進んで行く。すると尾っぽを立てたエゾリスが道を横切った。可愛いねえと思っていると次はエゾシマリスが横切る。ここはリスの楽園か?
近別川を離れると轍痕は減り本格的な登りが始まった。尾根を越えて目指す林道へ向かうのだ。ところが入口から9km地点に虎ロープが張ってあり通行止。引き返すしかない。ここも被災が原因だった。残された選択肢は1つ。道道718号でペンケニコロベツ林道の入口まで行くしかない。岩松ダムの南まで走ってようやく待望の林道に入った。牧草地の脇を走っているとバチバチッと何やら多くの虫がフロントガラスに当たる。よく見ると辺り一帯がテントウムシだらけ。こんな経験は初めてだ。ペンケニコロ川沿いに続く林道はフラットダートで直線が多くスピードが出がち。カーブの手前ではしっかり減速して走る。本線から西へ逸れてペンケ山の脇を通り奥十勝峠へ抜ける道へ行こうとしたが、分岐点に橋は見当たらず向こう岸へ渡河する轍痕もない。道は消失したようだ。素直にペンケニコロベツ林道で向かおう。ところが前方には道を封鎖する倒木とテープが見えた。またしても通行止か!と思ったら脇に迂回路があって一安心。そこからは道幅が狭くなり路面もガレてくる。暖かな日差しを受けながらスローペースで林道を進むと、「キケン注意」のイエローテープが目に留まった。ここも通行止!入口からの距離は約17km。まあ3分の2ぐらいは走れたであろう。それにしても通行止が多いエリアであった。