ジムニー車中泊ひとり旅 VOL.38「山梨県・精進湖」
Traveling alone with jimny.
灼熱の街を抜け出して
涼風の流れる湖上を漂う
Photo & Text / 山岡和正
SPECIAL THANKS/精進湖キャンピングコテージ:紹介ページはこちら
雑誌、WEB、カタログなど中心に、対象物を選ばず多方面で活躍するフォトグラファー。
特に車やアウトドア、旅などには定評がある。
ウェブサイト:http://kaz-yamaoka.com/
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北海道の気温が40度越えを記録した。屋外での活動には危険が伴うので必然的にインドアで過ごすことが多くなるが、広大な自然の中で遊びたいという思いは高まるばかりである。標高の高い場所にある湖に行き、水面をカヤックで漂うのは涼しそうだと避暑地のカヤック行を計画した。目的地は富士山の麓、精進湖だ。 バックシートをたたんで、いつものキャンプ道具より多めの装備を積み込む。今回の相棒はノマドなので、それでもラゲッジスペースには余裕があった。持って行くカヤックは、公園の池で乗るボートのように大きなカナディアンや一体成型されたポリ艇ではなく、折りたためてコンパクトに収納できるファルトボートである。 ノマドにはルーフレールを装着してあるが、重くて大きいカヤックをルーフに乗せたままで林道を長距離走るのは現実的ではない。ルーフレールを使うのは、キャンプ場内で組んだファルトボートを移動するくらいに留めておこう。
休日の渋滞を避けるために早朝4時過ぎに出発したのだが、この時間で東名高速には車が溢れていた。温度計を見ると30度が表示されている。 御殿場で下り富士山方面に走らせると、これまでとは打って変わり外気が急激に下がってきた。須走から山中湖辺りでは20度を切り、霧が漂い始めている。着てきたTシャツのままでは凍えてしまいそうだったが、富士山北側の林道群に入る頃には気温は上がり、天候も回復してきた。この辺りの道はフラットダートで走りやすく、周囲を覆う草木が緑色の樹葉を纏っていて美しい。
数年ぶりに組む手際の悪さと暑さのために、ファルトの組み立てが完了するまで1時間もかかってしまった。ようやく湖面に滑り出せたものの、そろそろ夕飯の準備をする時間になっていた。カヤック行を愉しむのはまた明日にして、今日は涼しい湖畔で静かなキャンプを満喫することにしよう。 ファルトを着岸させてキャンプサイトに戻ると、しまい忘れていた食料用の袋が荒らされている。どうやら森に住み着いているカラスのようだが、朝食用にと楽しみに用意していた食材をいくつかプレゼントしてしまった。 肩を落としながら振り返ると、子抱富士の名のままに雄大な富士山が大室山を抱えて赤く染まっていた。
富士五湖の南側にある林道群は基本的には溶岩質で距離は短いが、様々な景観が目を楽しませてくれる。針葉樹や広葉樹の森、高原、原野など、火山の麓らしい景色がそこここにある。平地では締まった走りやすい道が多く、少し荒れた道もベースは溶岩の欠片なので、砂や泥とは違いある程度のトラクションはかけられる。
この辺りの森は、夏になると濃い緑に覆われた生命力あふれる森へと変わる。鳥の声や、微かに揺れる草木の音を聴きながらの小休止は格別である。厄介な虫もほとんど現れることはなく、遠くに白い蝶が頼りなくひらひらと舞い、森の奥へと消えていった。
フランス製、ノーティレイの『レイド1』は、一人用のファルトボートながらラダー(舵)を合わせると5mを越える。大量の荷物を積載して大河を1か月以上下れるよう設計されていて、運動性能も抜群だ。大したメンテもせずに30年以上使っているがまったく問題なく、名艇と呼ぶにふさわしい。