2018年7月5日、ジムニーにとって20年ぶりの新型がついにお披露目されました。ファンにとっても、ジムニーチューナーにとっても待望のニュージムニーは、私たちの期待通り、いえそれ以上の中身でした。今回はいち早く、その詳細とインプレッションをお送りしたいと思います。
文:山崎 友貴
山崎 友貴 氏の記事
・くるまのニュース / スズキ新型「ジムニー」デビュー間近か 現行型はひっそり生産終了(外部サイト)
・APIO JIMNY LIFE / TSジムニーのトリセツ
・APIO JIMNY LIFE / 日本再発見ジムニー探検隊
日本の自動車史の中で、モデルサイクルが20年という金字塔を建てたのは、JB23/43型ジムニーだけです。9度の仕様変更を行い、最終的には10型まで進化し続けました。ですが、装着義務化された横滑り防止装置と、歩行者脚部保護基準により、その栄光の歴史に幕を閉じたのです。
新型ジムニー開発の噂は、ハスラーがデビューした2013年から出ていました。その後、様々な情報が飛び交いましたが、比較的初期の頃から、2代目ジムニーに近いデザインであるという話はあったのです。
昨年、ネット上に新型ジムニーのモックが流失。ファンに衝撃を与えました。それは、まるでメルセデス・ベンツのGクラスを縮小したようなデザインだったのです。果たして6月18日、ジムニーの先行ティザーサイトにおいて、新型はまんまの姿で発表されました。日本のみならず海外でもそのデザインは好評で、イギリスでは「ベビーG」などと賞賛を込めて呼ばれています。
新型は軽自動車版がJB64型、シエラがJB74型という型式になっています。JBの次だからJCだろうと思うのですが、おそらくシエラの「JC」というグレードと混同しないようにという理由ではないでしょうか。
発売前は「次期ジムニーはフロントサスペンションが独立懸架式になるのでは…」という心配もありましたが、基本的な構造はジムニーの伝統を守りました。ラダーフレーム構造、エンジン縦置きFRレイアウト、副変速機(サブトランスファー)付きパートタイム4WD、3リンクリジッドサスペンション。これらは2代目、3代目からの踏襲です。
まず、ラダーフレームですが、激しい路面からの衝撃にさらされて、ボディがダメージを受けても走行して帰還しなければならないクロスカントリー4WDにとって、頑丈な骨格はマストです。新型はなんと、ラダーフレームも新設計。非常にコストがかかる部分ですが、X型のクロスメンバーなどを追加することにより、先代のものよりも1.5倍もねじり剛性をアップしています。
このフレーム剛性のアップは、ドライブフィールの様々な部分に影響を及ぼすので非常に大切な部分なのです。それについては、順次お話していくことにしましょう。
エンジン縦置きFRレイアウトと副変速機付きパートタイム4WDは、クロスカントリー4WDにとってはお馴染みのパワートレインです。基本的にFRにするのは、重い荷物を積んでも急坂を登れるようにというクロスカントリー4WDのスタンダードです。パートタイム4WDは、2WDと4WDの切り替えを可能にすることで燃費向上を狙い、さらに強力な駆動力が得られる4WD Lowという最終減速比の低いモードを作るためです。また、プロペラシャフトに異常が発生した場合、FFで走行できる可能性を残すというメリットもあります。
パートタイム4WDでもうひとつ言えば、トランスファーの切り替えがスイッチ式から手動レバー式に戻されました。スイッチ式の利便性は高かったのですが、4WD Lに入れるのに、車両の傾斜角度が15度以下の場所でないといけないという制限があり、林道などでいきなり地形が変わった時などで不便な思いをしていました。また、もみ出しなどハードなクロカンシーンでトランスファーギアが外れてしますようなこともあったのです。手動にしたことで、こうした状況への対処が容易になったことは間違いありません。
3リンクリジッドサスペンションにも理由があります。リジッドアクスル式のサスペンションは、路面からの衝撃や障害物へのヒットから受けるダメージを軽減できます。3リンク式は、2本のロアアーム(サスペンションアーム)と1本のラテラルロッド(パナールロッド)の計3本のリンクでサスペンションの位置決めを行います。
最近のSUVはそのほとんどが4輪独立懸架式を使っています。ランドクルーザーさえも、前輪にダブルウイッシュボーン式を採用していますが、これはオンロードでの操縦安定性、乗り心地を考慮しているからです。3リンクリジッドアクスルは路面追従性こそ独立懸架式に及びませんが、構造がシンプルなため、僻地でトラブルに見舞われた時などは対応が容易というメリットがあります。
また新型では、コイルスプリングバネレートやダンパーの内部構造を見直して、ジオメトリーを大幅に進化させているのが分かります。オンロードでは驚くほど乗り心地が良く、しかもハンドリングがシャープに。オフロードでも非常に脚がよく動き、路面追従性がアップしているのがすぐに分かります。
もちろんこうしたスタビリティの面はサスペンションだけで解決できる問題ではなく、新造のラダーフレームがここで利いているのが分かります。
ちなみにトレッドの数値は、JB64は先代と同じですが、JB74は先代よりも前後とも40㎜広げられています。
ボディが新しくなれば、当然ながらエンジンも新しくなります。なにしろ、660ccK6A型も1.3ℓG13B型(JB33),M13A型(JB43)も前時代のパワーユニット。燃費も出力特性も、現代のユーザーを満足させるのは難しくなりました。
まず660ccエンジンは、現在のスズキの主流エンジンとなっているR06A型インタークーラーターボエンジンを搭載。ハスラーやワゴンRなどと同型ですが、ジムニーでは縦置きFRレイアウトに搭載するため、搭載角度が変えられています。重量は4.8kg増加していますが、スペックはトルクが7N・m下がっています。ですが、K6A型がショートストロークだったのに対して、R06A型はロングストローク。最高出力発生回転数が500rpm下げられて、先代よりも中回転域での取り扱いがラクになりました。出だしのトルク感はあまり変わらないのですが、オフロードで欲しい3000回転あたりのパワー&トルクは十分だと言えます。メーカーによれば出力特性は先代なみということですが、スムーズさは格段に向上しています。
特にMTでの扱いやすさは抜群ですが、4速ATも大幅に進化しました。今回のトピックとして、ATのロックアップ機構の採用が挙げられます。従来型ではロックアップしなかったため、高速道路やダートなどでミッションの滑りが起こり、エンジンパワーが無駄になっていました。しかし、新型ではきっちりとロックアップするため、リニアな加速感が得られるようになっています。
さて、進化と言えばシエラです。先代のシエラは決して魅力的、と言えるモデルではありませんでした。1.3ℓG13B型/M13A型はリッターオーバーとは言え、JB23型よりも遅いというシーンが多々見られました。例えば、勾配のきつい登りの高速道路では、100km/hをキープするのも難しかったのです。
しかし新しいK15B型エンジンは、その弱点を見事に解消しました。K15B型は、インドネシア向けの7人乗りミニバン「エルティガ」に搭載されていたものです。これをジムニー向けに味付けし直しています。
このエンジンはVVT(可変バルブタイミング機構)を採用しており、低回転域と高回転域の出力特性を両立しています。オフロード走行で多様する中高回転域と、高速、一般道で使用する低中回転域、この両方で走りやすいように吸気のタイミングが変わるのです。
さてスペックを見ると、先代よりもパワーで10kW、トルクで10N・mもアップしています。エンジン自体の重量は14.3kgも増加していますが、これを考えてもあまりあるフィーリング向上を実現しています。発進から100km/hまで実に気持ちよく加速し、80km/hから100km/h付近の再加速でもJB43型シエラで感じたようなストレスはまるでありません。
JB64型でもJB74型でも言えるのは、乗ってみると旧型とは隔世の感があるということです。どんな路面状況でも乗り心地は快適。ハンドリングは実はシャープで、もうワインディングロードも怖くありません。高速道路でも操舵感はリニアで、急激なレーンチェンジでも車体の揺れは瞬時に収まります。モノコックボディに独立懸架式サスペンションを採用するSUVは、セダンやクーペにも劣らぬ操縦安定性を持つようになりましたが、新型ジムニーもフレームやサスペンション、エンジン、トランスミッションを見直すことで、ようやく現代的なドライブフィールを手に入れたのです。