ジムニーのサスペンションの構造についてはvol1でもお伝えしましたが、もう一度おさらいしましょう。ジムニーのサスペンションは「3リンクリジッドアクスル式コイルスプリング」という形式です。
左は前後片側ずつのイラストになります。まずリジッドアクスル(車軸)式とは、左右の車輪が1本の車軸(アクスル)で繋がっているタイプのサスペンションを言います。これに対して、左右のタイヤがそれぞれ独立して動くサスペンションを独立懸架(インディペンデント)式と言います。
まず独立懸架式のメリット・デメリットについて説明しましょう。独立懸架式は、1本の車軸で左右輪が繋がっているリジッドアクスル式と異なり、左右のタイヤが独立して動きます。凹凸のある路面を通過する時、左右輪が別々で動くため、衝撃をよく吸収して快適性を発揮します。また路面追従性にも優れていることから、高い運動性能を発揮します。
またサスペンション自体が軽量に造れるため、さらに上記のメリットが高まります。サスペンションの構造物の重さを「バネ下重量」とも言いますが、バネ下重量が重いと動いた時の慣性モーメントが大きくなり、動きにくくなるわけです。軽ければ、モーメントが低くなり、よく動きます。また軽量化で運動性能が向上し、低燃費にもつながります。
一方で、独立懸架式は構造が複雑になりがちです。車輪を上下に動かすための基本パーツであるアーム、それに付随する、コイルスプリング、ダンパー(ショックアブソーバー)、そしてリンクなどいくつものパーツが必要になります。構造が複雑ということは、修理時の手間がかかり、またパーツのそれか1個が破損した場合、きちんと動かなくなるというリスクが高いということです。
またできるだけ軽く造るためにパーツ単体の強度がオンロードでの走行を主体に考えられており、障害物などにぶつけた場合に破損しやすいというデメリットも考えられます。さらに独立懸架式場合、サスペンションが動く量(トラベル量)がアームの長さで決まってしまいます。どんなに長いコイルスプリングとダンパーを装着しても、アームの長さ以上には動かないという特性があります。
独立懸架式サスペンションは乗用車やオンロード走行をメインにしたSUVなどに採用されていることが多いのです。
一方のリジッドアクスル式。アクスル(車軸)は、多くが頑丈な鋼の筒でできています。その中に車軸(ドライブシャフト)やディファレンシャルギアが入っているのです。この頑丈な筒ゆえに岩などにぶつけても、まず壊れるということはありません。丈夫な車軸を持っているので、対荷重性能(重いモノを載せてもそれに耐えられる丈夫さ)にも優れています。
また左右の車輪が1本の軸で繋がっているため、連動して動くというメリットがあります。これはオフロードで有利です。滑りやすい泥などの路面では、タイヤのトラクション(摩擦力)が低下します。リジッド式は片輪が少しでも持ち上がれば、シーソーの原理でもう1輪を下に落ち着けます。その結果、トラクションが高まるのです。オフロードを走るクルマにはうってつけです。
さらに独立懸架式に比べて構造物が少ないため、もし荒野のど真ん中でサスペンションにトラブルがあっても、比較的修理しやすいというメリットもあります。併せてメインテナンスもラクです。
さらにコイルスプリング、ダンパー、リンクの長さを変えれば、トラベル量を多くすることが可能です(これについては後述)。
デメリットはサスペンションの重量が重いことです。頑丈な車軸=重いということで、どうしてサスペンションの動きが緩慢になります。また燃費にも影響がないとは言えません。とは言え、ジムニーの場合はオンロードをスポーツカーのように走るクルマではありませんし、日常生活域では十分にキビキビと走ってくれます。
昨今、このリジッド式を使っているクルマは、非常に少なくなってきました。トラックやバンを除き、国産車ではジムニーとランドクルーザーシリーズくらいになってしまいました。 ランドクルーザーも前のサスペンションは独立懸架式です。こうした変化の要因としては、クロスカントリー4WDがSUV化し、高速性能と快適性を重視するようになったからです。またトラクションコントロールなどの電子デバイスが進化して、リジッド式でなくても激しい悪路を走破できるようになったことも考えられます。
そういう観点で見ると、ジムニーのサスペンションは非常に貴重で、実は贅沢だと言えます。