考えてみると、素晴らしい夕景よりも、素晴らしい朝のほうが記憶に残るような気がする。夕方のマジックアワーに比べると、美しい朝は一瞬だからかもしれない。
僕の住んでいる場所は都内でも特に家が密集している場所で、家の窓から朝焼けを望むことなど不可能に近い。最近では山に行く時に高速道路で美しい東の空を見ることもあるが、コーヒーカップでも傾けながら朝を迎えるなんて、年に一度あるかないかだ。
「極上の朝」を求めて、僕と山岡巨匠はジムニーで旅に出た。折しも、関東甲信越は数日前に梅雨入りしたばかり。そんな時候に、美しい朝なんて望めるのだろうか。ただし、雑誌には締め切りというのものがつきまとう。梅雨開けを待ってはいられない。
6月上旬、僕はとりあえず西を目指した。東に行けば、まだ梅雨が緩い場所もあるだろうだろうと思ったが、秋田では悲惨なクマ被害が報道されていたため避けた。それならば高い所に行けば、梅雨雲を下に見ることになるのではないか。
そして目指したのは、長野県にある大鹿村だ。かつて林道のコンテンツでも紹介したが、この村には「黒川牧場」という牧場がある。ただの牧場ではない。標高2000m近くにあるという、珍しい場所だ。
ここには池があり、その池からは中央アルプスや南アルプス、八ヶ岳などの日本の名だたる峰を見ることができるというのだ。梅雨のこの季節、もし雲海にでもなれば素晴らしい景色になるに違いない。そして、もし朝焼けにでもなれば…。