JIMNY LIFE ジムニーをとことん楽しむ僕らのライフスタイルマガジン JIMNY LIFE ジムニーをとことん楽しむ僕らのライフスタイルマガジン

CATEGORY MENU

ビヨンド・ザ・フィールダー
VOL.007
極上の朝を迎えるための旅
極上の朝を迎えるための旅

朝目覚めてカーテンを開けたら、眼前に絶景が広がっている...
都会では、なかなかそういった環境を望むのは難しい。
時には星の下で眠り、極上の朝を迎えてみたくなるのである。

画像をクリックすると拡大します。

2000mの天空で梅雨を突き抜ける

黒川牧場に向かう林道は広葉樹が多く、緑が目に眩しい美しい道だ。

考えてみると、素晴らしい夕景よりも、素晴らしい朝のほうが記憶に残るような気がする。夕方のマジックアワーに比べると、美しい朝は一瞬だからかもしれない。

僕の住んでいる場所は都内でも特に家が密集している場所で、家の窓から朝焼けを望むことなど不可能に近い。最近では山に行く時に高速道路で美しい東の空を見ることもあるが、コーヒーカップでも傾けながら朝を迎えるなんて、年に一度あるかないかだ。

「極上の朝」を求めて、僕と山岡巨匠はジムニーで旅に出た。折しも、関東甲信越は数日前に梅雨入りしたばかり。そんな時候に、美しい朝なんて望めるのだろうか。ただし、雑誌には締め切りというのものがつきまとう。梅雨開けを待ってはいられない。

6月上旬、僕はとりあえず西を目指した。東に行けば、まだ梅雨が緩い場所もあるだろうだろうと思ったが、秋田では悲惨なクマ被害が報道されていたため避けた。それならば高い所に行けば、梅雨雲を下に見ることになるのではないか。

そして目指したのは、長野県にある大鹿村だ。かつて林道のコンテンツでも紹介したが、この村には「黒川牧場」という牧場がある。ただの牧場ではない。標高2000m近くにあるという、珍しい場所だ。

ここには池があり、その池からは中央アルプスや南アルプス、八ヶ岳などの日本の名だたる峰を見ることができるというのだ。梅雨のこの季節、もし雲海にでもなれば素晴らしい景色になるに違いない。そして、もし朝焼けにでもなれば…。

GW以降は、黒川牧場に誰でも入ることができる。

中央高速を松川ICで降り、さらに1時間ほど山に向かって走る。日本を旅していると度々思うのだが、険しい地形でも、日本人は大抵の場所に住んでいるんだなと。そしてほとんどの所は耕作地になっているのも驚きだ。

やがて道は雲の中に入り、急激に視界が狭まってきた。果たして、この雲を抜けることができるのか、それとも天空の池も雲の中なのか。

片道4時間かけて吉と出るか凶と出るか。

黒川牧場の入口にはゲートがある。GW以降は開放され、だれでも天空の池に行くことが可能だ。ただし、ここからはかなりのガレ場になるから、どのクルマでも行けるというわけではない。FRではかなりきついし、大きなサイズのクルマも切り返しが多く大変だ。

つまり天空の池に行くには、ジムニーはうってつけなのである。トランスファーを4WDにして、ゆっくりとJB43を走らせていく。43の場合は4WD-Lでもいいかもしれない、とふと思った。

ささくれだった石を踏みしながら走ると、ジムニーの横を急速に雲が流れ始めた。これなら、雲の上に出るかもしれない。

ウルトラライト派に注目の超軽量テント

冒険の幅をグッと広げてくれる超軽量な「カミナドーム1(一人用)」。

昨今、どのアウトドアブランドもウルトラライトに主眼を置いた商品をリリースしており、どのアイテムも目覚ましい進化を遂げている。テントも例外ではない。

テントを背負って出かける登山者やバックパッカーにとっては、テントの軽さ=快適なのである。

そんな市場で、久しぶりに国産メーカーがやってくれた。ファイントラックがリリースした「カミナドーム」は、アウトドア派の間で大きな話題を呼んでいる。

インナーに7デニールという細い糸を使用し、軽量化を実現。これは日本の繊維業界だからこそできた技術などいう。

軽さだけではない。山岳テントに必要な堅牢性も十分に備えており、超軽量テントとしては珍しい4シーズン用の機能も備えている。

気になる重さだが、一人用のカミナドーム1が1120g、二人用のカミナドーム2が1280g。ポールやフライシートが込みだと考えれば、実に驚異的だ。

「ジムニーで行くから重さなんて関係ないしょ」って、言う方もいらっしゃると思うが、軽さは=大きさでもあるのだ。

収納するとこんなにコンパクトになるカミナドーム1。

コンパクトさが美点のジムニーだが、当然ながら車内スペースにも限りがある。2人乗車で後部座席を倒したとしても、できるだけ荷物はコンパクトにまとめたい。そこで、こうした超軽量テントが有効になるわけだ。

カミナドームなら、ジムニーのグローブボックスに入れることだってできる。ウルトラライトなシェラフやチェア&テーブルと一緒に車内に常備しておけば、気に入った場所で野営することが可能なのだ。

ちなみに、国産テントで超軽量なモデルと言えば、アライテントの「ライベン・トレックライズ0」というチョイスもある。こちらの重さは1名用で1250g。カミナドームよりも少し重いが、許容範囲と言えるだろう。

海外はウルトラライト文化花盛りなので、数々の軽量テントをリリースしている。MSRやニモ、ビッグアグネス、マウンテンハードウェアなどが優れたテントを出している。

だが、日本製の場合はアフターサービスという点でメリットも多く、部品供給も速い。デザインでは海外製にかなわないが、日本製テントを一度チェックしてみてはどうだろう。

記憶に残る絶景の中で目覚める贅沢

幻想的な霧の森の中を進むTS4。十分なロードクリアランスを確保しているので、荒れたダートでも安心だ。

濃い霧のためによく分からなかったが、ナビを見るとジムニーは池の近くにいるらしい。辺りは純白の世界で道がかろうじて確認できるだけ。とりあえず何かが見える所まで走ってみる。やがて周りに森が見えてきた。

ここは黒河山という2500m級の山の8合目くらいなのだが、ここの森は本当に美しい。こうして雲が通って湿度があるからなのか、樹木の根元にはコケがむしている。木は針葉樹が多く、岩とのコントラストが海外のような風景を造りだしている。

しばらく走ると、倒木によって行き止まりになっていた。仕方がなく引き返すと、ちょうど池の辺りの雲が流れ始めている。この様子なら雲が晴れそうだ。

ジムニーの中で待つこと数分。突然、目の前が開け、圧倒されるような景色が広がった。木曽駒ヶ岳や槍ヶ岳、御嶽山が海の上に浮かぶ島のように見える。一面の雲海だった。それは枯山水の庭を彷彿とさせる。

しばらくすると、その景色は幻だったかのように再び雲の中に消えた。

この日は、雲が切れたり入ったりと、そんなことを繰り返していた。池の脇にテントを張り、夕食の準備をする。今宵はジンギスカン。この地方はなぜかジンギスカンが名物なのだ。

信州の遠山というところでは、かつてホームスパンという織物を作るために綿羊飼育が推奨されていた。ところが段々、羊毛が売れなくなってきて、そこで考えたのが食肉への転用だった。こうして遠山からジンギスカンが広がり、飯田や伊那、松本へとジンギスカンが広がっていったのだという。

この辺りではスーパーに行くと必ず、パックに入ったジンギスカンが売られている。フライパンさえあれば、面倒な準備なしで簡単に食べられることができるので、キャンプにもおすすめだ。

夜半からシトシトと雨が降り出した。池では、繁殖期なのか、カエルたちが元気に鳴いている。フライシートに当たる雨の音、そしてカエルの声で、実に風流な夜となった。明日の朝の天気予報は曇り。もしかすると晴れるかもしれない。それを期待して、早めにランタンの灯りを消した。


朝4時、iPhoneの無粋なアラームで目を覚ます。身体を起こして、テントのベンチレーターから外を見る。近眼だから、よく分からないのだが、どうも空がピンクになっている気がする。雨も上がったようだ。

テントから飛び出してみると、そこには天上世界が広がっていた。自分が宙に浮いているような、何とも言えない感覚。筆舌に尽くしがたい、とはこういうことか。

誰にも邪魔されない静寂の朝。ほんの数秒だけ空が神の色に染まり、そして消えた。