ジムニー車中泊ひとり旅 Vol.15
Men alone travel by jimny
夏の暑さに疲れ、癒しを求めて涼しげな高原へと向かった
ちょうど旅に出るタイミングで満月になる
空の広い場所で静かに月を眺めてみよう
Photo & Text : 山岡和正
今年の中秋の名月は9月21日だという。
高原でのキャンプを予定していたので、月見の要素を加え目的地を「高ボッチ高原」に決めた。周囲には迷路のような林道群もあるし、頂上のキャンプ場付近は遮るものなく360°の視界が開けていて夜空を眺めるにも最高の場所なのだ。
まずは「堤洞林道」や「大蛇組林道」のある南側のエリアへと向かった。中央道の岡谷インターチェンジを降りて北上すると直ぐに林道の入り口だ。砂利が敷かれ、良く整備されたフラットダートが続いている。警戒に走り林の中のブラインドコーナをいくつか過ぎると急に視界が開けてススキの広がる草原へと抜けた。JB74のボンネットの向こうには見渡す限りのススキが優しい風に吹かれてそよそよと揺れていた。逆光に照らされて光輝く穂の美しさに暫し時を忘れる。おそらく頂上にある「高ボッチ高原」にはもっとたくさんのススキが群生しているに違いない。今回の目的の一つでもある「お月見キャンプ」の風景が脳裏に浮かび、思わず上がるテンションを抑えつつ先へと進んだ。地図には載っていない支線が次々と現れるが、入り込んでも行き止まりばかりで短い。迷うことはないだろうがメインの大蛇組線から堤洞線を回りこんで、出発地点まで戻ることにした。
細くて長いワインディングを上りようやく到着した「高ボッチ高原」は、ドライブに来たらしい人達で賑わっていた。駐車場に併設されたキャンプ場には数組のキャンパーがテントを展開している。予想外の人の多さに驚きながらメインの風景写真を撮れる場所はないかと周囲を散策してみたもののベストポジションがない。景色の良いビューポイントはたくさんあるのだが、ジムニーと一緒に写真が撮れる場所がないのだ。仕方ないので傍にある牧場の牛たちを横目に高原から少しだけ下ってみることにした。高原下にある広場には観光客の姿もなく、周囲は一面ススキに覆われていて、落ちて行く陽の光に照らされ赤く染まっていた。振り返ると遠くの丘の上にはいつの間にか金色の満月も姿を見せている。今すぐにシャッターを押さないと、それらが織りなす一瞬のバランスが崩れてしまう。数秒で雲は流れ形を変え、光の色は刻々と変化している。ふと、心の恩師である写真家アンセル・アダムスが「エルナンデスの月の出」という作品を撮った時のことを思い出した。彼も同じような状況で、大型カメラの8×10を瞬時にセッティングしてフィルムに収めたのだ。ハッと我に返り、急いでカメラとジムニーをセットする。シャッターを切ると直ぐに夕日は雲の中へ隠れ、そしてそのまま北アルプスの稜線の向こうへと消えていった。
キャンプ場へ戻るとキャンパーと数人の観光客だけになり、閑散としていた。
いよいよメインイベントである「ひとり月見の会」の開催であるが、見上げた夜空には厚い雲が広がっている。雲の流れは速いので、このまま待てば満月も顔を出すのではないかと期待していたのだが、そのうち高原は丸ごと雲に飲み込まれホワイトアウト状態に。
そして、その後いくら待っても満月が姿を見せることはなく夜のお月見会は断念した。
いくつもの支線が入り乱れているが、メインはこの2本で繋ぐと出発地点へと戻れる。道路整備にも余念がなく、木道に整備されている場所もあった。
土壌の弱いエリアでは亀裂のような水害の傷跡が見られた。誤ってタイヤを落としても走行不能になるようなことはないが、ボディへのダメージは否めないだろう。
「高ボッチ高原」の麓にある諏訪湖周辺は鰻の有名店が多く点在する。キャンプ料理に追加するために鰻をメインで扱う評判の魚屋さんを尋ねたところ、なんとご主人はジムニストだと発覚。もちろん食した鰻は香ばしく絶品であった。
塚原川魚店
ADD 長野県岡谷市中央町3-7-2-1
TEL 0266-22-3361
山岡 和正
雑誌、WEB、カタログなど中心に、対象物を選ばず多方面で活躍するフォトグラファー。
特に車やアウトドア、旅などには定評がある。