新型の進化は乗らなければわからない!
率直なところ、この時代によくこのカタチで出せたなというのが新型ジムニーへの印象です。Gクラスが新型でも、伝統のカタチを崩さなかったことを考えれば、開発陣のコンセプトは正しかったと言えるでしょう。たしかにカタチも衝撃的ですが、走りはもっとセンセーショナルです。
ラダーフレームに前後リジッドサスペンションの車というのは、今でもドライブフィーリングに「諦め感」があるのは事実です。例えばジープラングラーにしても、「これはジープだから」という割り切りが必要です。これまでのジムニーも同様でした。
JB64のフロント下回り。ステアリングダンパー標準装備。スタビライザーは先代のものより太くなりバネレートが上がっていそうだ。 ですが、新型のジムニーは違います。エンジニアの努力が結実して、非常にナチュラルなハンドリングが実現されているのです。発進してある程度の速度に乗るまでに、それは十二分に理解できます。バネ下重量の重いリジッドサスでは、瞬発的な操舵で反応が少し遅れることも珍しくありませんが、実にリニアに車両が反応してくれます。
前述の通り、乗り心地も非常に良くなりました。従来とほぼ同じサイズのコイルスプリングとダンパーが付いているとは思えないほど、懐の広い脚周りとなっています。ダンピングが最後までソフトで、路面からの細かい入力を実によく吸収してくれます。路面追従性は抜群で、コーナリングでも不安を感じることがまるでありません。
これは前述したパワーユニットとのマッチングがいいという面もあります。出力特性、ATのシフトスケジュールなどを十分に見直しているお陰で、日常生活のほとんどを占めるオンロードにおいて、JB64/74型は何のストレスも感じないクルマに仕上がっています。
さて、この好印象はもちろんオフロードでも同じです。今回は深い砂地を走るだけに止まりましたが、「ノーマルでここまで!」という衝撃があります。サスペンションは従来型よりも伸びるようになっているのに加えて、新型からは何と言っても「伝家宝刀」が付きました。
それはブレーキLSDトラクションコントロールです。これはABSのユニットを使ったもので、タイヤが空転を始めたら、ブレーキをかけてそれを止め、反対側のタイヤの駆動力を維持させるという電子デバイスです。意味が理解できない人に詳細をご説明すると、自動車というのは曲がる時に左右輪に発生する回転差を吸収させるために、左右輪をつなぐドライブシャフトの間にディファレンシャルギアという差動装置が付いています。ところが、この装置は片側一輪が空転してしまうと、反対側の一輪が完全に駆動力を失って止まるという弱点があるのです。それを防ぐために「リミテッド・スリップ・デフ(LSD)」や「デフロック」という差動制限装置を付けるのですが、ブレーキLSDトラクションコントロールは自動的にブレーキをかけることで、これらの代わりの役割を果たすのです。
※ブレーキLSDトラクションコントロール ジムニーはこれまで、差動制限装置はノーマルでは持たないクルマでしたので、オフロードを走るにはそれなりのテクニックが必要とされていました。ところが、この電子デバイスが付いたことで、そういったテクニックは最低限のもので良くなります。さらにタイヤも、溝の深いオフロードタイヤでなくともそこそこ走れてしまうというメリットも生まれます。
ブレーキLSDトラクションコントロールの威力は絶大で、介入もごく自然でした。とにかくアクセルと踏んで、操舵だけすればいいというのは、ジムニーに新次元の悪路走破性を与えてくれます。この装置については賛否両論でしょうから、もちろんESPスイッチをオフにすれば切ることも可能です。ただし、4WD Lの発進時のみ作動するということでした。
オフロードに関して言えば、圧倒的にトルクの太いシエラが扱いやすいと言えます。ただし、660cc版もピーキーなエンジンでなくなったことから、オフロードでの運転のしやすさは格段に向上しています。ただし、MTの2速と3速が離れ気味なのは相変わらずで、ダートを飛ばす場合にはシフトチェンジが忙しくなります。ですので、なおさらシエラの良さが光っていました。

左:ジムニーJB64 XLグレード(スペリアホワイト) 右:ジムニーシエラJB74 JCグレード(スペリアホワイト)