人は誰でも、自然への憧れを持っている。
見たことのない光景を、自分の知らない世界を見たい。
さあ、旅に出よう。
衝動のままに、林道を駆け抜けて。
写真家・瀬尾拓慶が切り取る写真の数々と、相棒の黒蔵(ジムニーシエラ)との旅の物語をお楽しみください。
瀬尾 拓慶 (セオ タクミチ)
写真家・デザイナー
1990年4月24日(27歳)、神奈川県川崎市生まれ。 多摩美術大学環境デザイン学科卒。
株式会社S.E.O所属。
自ら撮影した写真を用い、ポスターやCDジャケット、様々な広告媒体のデザイン。
また、バックグラウンドミュージックの作曲等も手掛ける。
写真に合わせた作曲活動、個展ではピアノの即興演奏なども行う。
自分が生きるこの世界の美しさを、もっと知りたい。
1mmでも視点を変えて、見た事の無い光景を見たい。
その思いにより、純粋な好奇心と大きな行動力を持って美しい風景写真を中心に撮影をしています。
ホームページ: https://www.takumichi-seo.com
Facebook: https://www.facebook.com/Takumichi.S
黒蔵(ジムニーシエラ)は私の唯一の愛車であり、写真家生活においてなくてはならない大切な相棒だ。
必要に応じてAPIOで足回りのカスタムを施し、車内には寝る時に簡単に設置できる手製の折りたたみベッドを積んでいる。
黒蔵の存在により、現在はとても快適な森での撮影生活を送ることが出来るようになった。
私は林道の光を追い求め、日々この相棒と共に林道や道無き道を進んでは撮影をしている。
その旅と、森の中で出会った美しい光をここに残していこうと思う。
「トンットントン」
今朝は雨が降っているようだ。
私は、黒蔵の中で目を覚ます。
眠気まなこで寝袋の中から這い出ると、霧立つ森に視線を向けた。
ここは、深い深い森の奥。
淡い光に包まれた木々が、静かに浮かび上がっていた。。。
降らない予定の筈だったが、なかなか天気予報もあてにはならない。
特に山にいるのであれば尚更だろう。
しかし私にとっては、雨の一粒もありがたい。
雨が降る山には危険や行く手を阻む難所が出来てしまうが、同時に霧を生み、光が森を包み込む幻想的な光景が広がる。
鹿笛がどこからともなく響き渡り、それを旅の始まりの合図とした。
雨が森を打つ音に耳を傾けつつ、ゆっくりと林道を進み続ける。
「ガタガタ、ゴトゴト、ズルッッ。。」
水を含み、泥の川の様になったダート道(未舗装路)をスリップしつつ奥へ奥へと光を探して進んで行く。
昨日より一層冷え込んだ外気に躊躇しながら、外に出て森と雨の香りを含んだ冷たい冬の空気を肺一杯に吸い込んだ。
痛いほどの冷たさだけれど、頭が冴える感覚が気持ちよい。
目の前の光景が一瞬だけ白く溶ける様子を何度か見てから、木々が覆う世界から灰色の空を見上げた。
シャッターをいくつか切って満足すると、車に戻って一息ついてからアクセルを踏んだ。
場所によっては雪が降ったらしく、その瞬間は違う世界に来た様な錯覚を覚える。
どこかにつながる筈の分かれ道を慎重に選びながら、霧をかき分けその先を目指す。
路肩の下に流れる川に、いつのまにか顔を出した日の光がうっすらと反射していた。
夜が来る前に、どこかに抜けられるとよいのだけれど。
毎度の様に小さな焦燥感を覚え、自然に右足に力が入る。
刻々と姿を変える森の中は、目に入る光景や現象全てが美しい。
決定的な瞬間ではなくとも、心が震えるシーンというのはいくらでも落ちているものなのだから。
それら一つ一つを大切にカメラで切り取りながら旅をする。
旅は、始まったばかり。
これからどんな光景と出会うのだろうか。
来月は、真冬の森へ。。。