今朝は、やけに足が冷たい。
沢山の狐の足跡黒蔵の結露したガラス越しに、薄暗がりの白い世界を見た。
寝袋の中で足をすり合わせる。
外に出たくない、寒すぎる。
とはいえ、考えていても仕方がない。
覚悟を決めて外に出る。
昨晩はそれなりに降ったらしく、粉の様な雪が足首程まで積もっていた。
カメラを持って、早朝の森を歩き回る。
ふと足元を見ると、てんてんと雪の上に動物の足跡が付いているのを見つけた。
鹿、狐、うさぎ、様々な動物がここにいたのだろう。
この白くなった森に何を想っているのだろうか。
気配を追う様に、私は辺りを見回した。
アスファルトと雪。コントラストが美しい歩くたびに、雪がサラサラと靴の上を流れる。
夜明けの光を楽しみながら1日の計画を練ってみるが、結局は練りきれないのが常だ。
凍りついた小川を見つめるのをやめ、黒蔵へ戻る。
排気口の雪を確認し、カメラを手の届く場所に置いてエンジンをかけた。
静寂を壊す音に心を躍らせ、白銀の道に線を引く感触を楽しむ。
雪をかぶった木々は、朝の始まりを喜ぶかの様に輝いていた。
ところどころで車を停めては、新しく出会う光景をカメラで切り取ってゆく。
場所によっては雪があまり積もらなかったらしく、黒いアスファルトが見えていた。
モノクロームの様な美しいコントラストを眺めつつ、その先を更に目指す。
鹿を追う、親子グマの足跡しばらく走っていると、ひときわ大きな足跡を見つける。
「熊だ、、、」
車を降りて確かめる事にする。
どうやら冬眠していない親子熊がいるらしい。
よく見ると、鹿の足跡もある。
追っているのだろうか。
冬の熊は怖い、特に子連れは恐ろしい。
出会うことはなかったが、少し警戒を強くして撮影を続ける。
きっと、彼らはこちらには気がついている筈だから。
寒々しくも、美しい森の中を走っていると、フロントガラスに音もなく雪が当たった。
どうやら、また降り始めた様だ。
木々を背景に、記憶に残る光景が広がってゆく。
少し休憩がてら、靴を脱いで隣のベッドに足をなげてみる。
ここに来てよかった、ふとそう思う瞬間がある。
どれだけの光景を、これから見る事ができるのだろうか。
輝く冬の池季節は巡り巡る。
やがて遠くない日に雪も消え去り、柔らかい空気がこの森に春を運んで来るのだろう。
森の中に咲き乱れる花々、新緑が宿す艶やかな光が待ち遠しい。
黒蔵の中で物思いに耽っていると、近くでまた鹿の声がする。
まるで、こちらを出迎えてくれている様だ。
彼らの声を聞くと、森にいるという実感が湧いて来る。
さあ、旅の続きを始めようか。
再び靴を履いて、深呼吸をする。
黒蔵のエンジン音が、静寂を壊して響き渡った。
春の森を目指して。